高画質の有機EL(OLED)テレビの価格が下がってきましたので、売れています!
有機ELテレビを買うか、それとも液晶テレビを買うか迷う方も多いでしょう。そんな時に気になるのが、「消費電力は、有機ELテレビの方が液晶テレビよりも高い」と言われていること。
本当でしょうか?理由は何でしょうか?
まず同一のメーカーのラインアップの中から、同程度のグレードの有機ELテレビと液晶テレビを選んで消費電力を比較してみます。2022年モデルのソニーブラビア有機ELテレビXRJ-65A80Kと液晶テレビXRJ-65X90Kをピックアップしてみました。
その結果、やはり有機ELテレビの方が消費電力が高いので、その理由について解説します。主な理由としては、偏光板とカラーフィルターの使用があります。
さらに詳しく紹介します。
有機ELテレビの消費電力を液晶テレビと比較!
有機ELは自発光型で、非発光型の液晶よりも、理論上は効率が高い、すなわち消費電力が低くできると考えられていました。ところが最近の有機ELテレビと液晶テレビを比較すると、有機ELテレビの方が消費電力が高いと言われています。
例としてソニー(SONY)ブラビアの65インチの4Kテレビを調べてみると、以下のようになっています。
4K有機ELテレビ SONY XRJ-65A80K
消費電力 449W
年間消費電力量 214kWh/年
4K液晶テレビ SONY XRJ-65X90K
消費電力 255W
年間消費電力量 209kWh/年
確かにかなり有機ELの方が消費電力が高いです。ただし、数年前のモデルと比べて両方ともかなり低消費電力化が進んでいます。したがって、同じ年に発売された機種同士で比較すべきでしょう。
テレビの場合、映像を表示するディスプレイ部分以外にも消費電力がかかりますので、厳密にはその他の条件を同じにしないといけません。そのためグレード的に近いものを選んでいます。
また当然のことながらインチサイズ大きくなるほど消費電力が高くなりますので、同じインチサイズ同士で比較すべきです。
有機ELテレビと液晶テレビでインチサイズのラインアップが必ずしも同じではなく、いずれか一方にしか無いインチサイズもあります。ここでは両方にある65インチで比較しました。
わかりにくい点は、消費電力の差ほど、年間消費電力量には差がないことです。一般的には[消費電力]×[使用時間]で消費電力量が決まりますので、もっと年間消費電力量に差がある方が自然です。
ソニーの上記製品の仕様説明のページには以下のように記載されています。
「年間消費電力量とは、省エネルギー法に基づいて、一般家庭での1日の平均視聴時間(4.5時間)を基準に算出した、1年間に使用する電力量です」
このように使用時間は、年間消費電力量を計算するために定められていますので、必ずしも実際にユーザーが使う時の使用時間ではありません。
有機ELテレビは黒の消費電力がほぼゼロ!色により異なる
わかりにくくしている原因の1つが、年間消費電力量を計測する時に表示する映像と消費電力の関係です。
有機ELテレビは、画素のサブピクセルごとに電流を流して発光させる自発光方式のため、黒を表示している部分はほとんど電力を消費しません。また赤色・緑色・青色の発光材料ごとに発光効率が異なるため、同じ明るさでも表示させる色によって大きく消費電力が異なります。
つまり、どのような映像を表示させるのかによって、かなり年間消費電力量が異なってくるため、必ずしも上記の消費電力の値と比例していないようです。
有機ELテレビの消費電力を実測する
有機ELテレビを実際に購入すれば、どのくらいの消費電力であるのかを実測することは比較的簡単にできます。以下のような電力使用量をモニターできる機器を使用するだけです!
実際に使用してみるとわかりますが、実はテレビも明るさなどを好みに合わせて調整できます。また前述のように表示する映像によって消費電力が異なります。
したがって、1つの測定例として結果を評価するようにしましょう。つまり、諸条件が変われば結果も変わり得るためです。
また節電をしたい方は、これを使って消費電力が減らせる使い方を調査してみると良いでしょう。
有機ELテレビの消費電力が液晶よりも高い理由
有機ELテレビの方が消費電力が高くなる原因はいくつかあります。主要なものは以下です。
1.偏光板の使用
2.青色発光材料の効率が低い
3.カラーフィルターの使用
これらが有機ELテレビの消費電力が液晶よりも高くなる理由です。これらについて順番に述べます。
偏光板の使用が原因
有機ELテレビの方が消費電力が高くなる主要な原因の1つは、有機ELにも偏光板が使用されるためです。
液晶には2枚の偏光板が使われており、ここで大きな光エネルギー損失があることが知られています。
液晶の内側の偏光板は、バックライトの光から特定の偏光を取り出すために使用されています。この部分で原理的には約50%の光損失が生じますが、3M社のDBEFという反射型偏光板により、もう少し損失を減らしています。
その後、液晶層を通過時に画素ごとに偏光状態が制御され、外側の偏光板を通過する際に画像が形成されます。ここでもある程度の光損失が発生します。
有機ELの場合、画素ごとに発光強度を制御するだけで画像が形成できるので、原理的には偏光板が無くても画像表示が可能です。
しかし、外部から侵入した蛍光灯や太陽光などの光(外光)が、有機EL素子を形成している電極基板(*反射率の高いアルミニウムなどでできている)で反射しやすく、周囲が明るい場所ではコントラストが低下し、著しく画質に悪影響を及ぼします。特に有機ELの最大の長所である「締まった黒を表示できる」特性が台無しになってしまいます。
この問題を解決する(外光反射防止)ために、有機ELには4分の1波長板と偏光板を組み合わせた円偏光板が画面の表面に貼合されています。外光は、円偏光板通過時に円偏光となり、電極基板で反射して再度円偏光板に入射した際に吸収されます。
その結果、画面を見ている人には反射光が見えなくなります。ただし、最表面で反射した光は見えますので、これを防ぐためには反射防止のコーティングなどを施します。
青色発光材料の効率が低いことが原因
有機ELの方が消費電力が高くなる主要な原因の1つに、青色発光材料の効率が低いことが挙げられます。
有機ELでは、電流を有機化合物に流して発光させます。この現象をエレクトロルミネッセンス(EL)と言い、有機化合物を利用しますので有機ELと呼ぶわけです。
ディスプレイとして使用するためには赤色・緑色・青色の光の3原色が必要となります。これらにはそれぞれの色で発光する異なる有機化合物を使用します。
赤色と緑色の光については、高効率の燐光が利用できる発光材料が開発されており、ほぼ100%の発光効率と言われています。ただし、実際に有機ELから外部に取り出して活用できる効率はもっと低くなります。
ところが青色の光については、蛍光を利用する発光材料しか開発されてなく、燐光の数分の1程度の発光効率となります。この青色の光の効率の低さが、有機ELの効率を大きく下げる原因となっています。
カラーフィルターの使用が原因
大型の有機ELテレビのパネルは、韓国LGほぼ独占的に製造し、自社だけでなく、ソニーやパナソニックにも供給しています。スマホについてはSamusungが大きなシェアを持っていますが、大型のテレビ用の有機ELパネルは製造していません。その理由は有機ELパネルの方式にあります。
Samsungのスマホ用有機ELパネルは、赤色・緑色・青色のサブピクセルを、メタルマスクを使って蒸着方式でそれぞれ作っています。ところが大型のテレビ用になると、この方法では作ることが困難で、断念してしまいました。
それに対しLGは、赤色・緑色・青色の発光材料を積層し、パネル1面を白色で発光させる方式としました。もちろんこれだけでは白色照明になってしまいますので、その上に液晶パネルと同様のカラーフィルターを配置し、サブピクセルと形成しています。
カラーフィルターは、サブピクセルごとに白色光から赤色・緑色・青色を取り出すように設計されています。つまり、ある色を取り出す時は、他の色は吸収して損失となりますので、原理的には光は3分の1以下に弱まってしまうわけです。
このカラーフィルターが消費電力を高くする主要な原因の1つとなっています。また前述のように、Samsungのスマホ用有機ELはカラーフィルターを用いていませんので、より効率が高く、低消費電力となっています。
有機ELと液晶の消費電力比較!スマホの場合
すでに上で詳しく説明していますが、改めてスマホについて簡単にまとめます。
iPhoneやGalaxyなどの上位モデルのスマホは、現在、ほぼすべて有機EL(OLED)になっています。スマホ用有機ELディスプレイは、Samsung Displayが開発し、大きなシェアを持っています。特に高性能な有機ELパネルは圧倒的なシェアで、AppleもiPhone用にSamsung Displayから調達しています。
その有機ELパネルは、蒸着で赤色・緑色・青色(RGB)のサブピクセルを形成したもので、カラーフィルターを使用していません。カラーフィルター使用した場合に比べて、カラーフィルターを取り外すことで約3倍効率が向上しますので、テレビ用有機ELパネルよりも圧倒的に低消費電力になることがわかります。
液晶を搭載したスマホに比べた場合については、スマホでは前述のように消費電力が簡単に確認できないため明確にはわかりません。
まとめ
有機ELが液晶よりも消費電力が高くなってしまう原因について紹介しました。将来的には印刷方式の導入により、カラーフィルターを省略できる可能性もありますし、より効率の高い青色発光材料が開発される可能性もあります。今後の性能向上に期待したいです。
急速に価格低下が進む有機ELテレビについてこちらの記事で紹介しています。
コメント