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有機ELの印刷方式と蒸着方式のデメリットとメリット!OLEDのインクジェット式は普及するのか?

有機EL

有機EL(OLED)の高画質なディスプレイがスマートフォンに搭載され、また大型テレビ用にも普及し始めています。これらは有機ELディスプレイでも、構造や製造方法に違いがあります。

有機ELの研究開発は活発に行われており、新しい製造方法のものも登場しています。これらについて紹介します。

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有機ELは蒸着方式か印刷方式で作られている!

有機ELは、電極の間にエレクトロルミネッセンスという電流を流すと発光する特性をもつ有機化合物を積層することにより作製されています。ディスプレイにするためには、膨大な数の画素を正確に配列しなければなりません。この画素は、通常はRGB(赤色・緑色・青色)のサブピクセルにより構成されています。

したがって、有機ELディスプレイを製造するためには、このサブピクセル単位でRGBに発光するようにしなければならず、高精細なディスプレイになるほど高い技術が要求されます。

これまでに蒸着方式と印刷(インクジェット)方式が実用化されています。次項からそれぞれについて順番に解説します。

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有機ELを蒸着で作る方法は2つある!

まず最初に実用化した方法は蒸着方式です。有機ELの発光材料である有機化合物を、減圧下で加熱し、蒸発させ、基板上に付着させることにより発光層を形成します(*これを「蒸着」と呼びます)。

蒸着の方法は主に2つあります。一つはRGB塗分け方式で、高精度なメタルマスクを蒸着源とパネル基板の間に配置し、RGBのサブピクセルを塗り分けていく方式です。各色ごとにメタルマスクを変更する工程が必要です。

RGB塗り分け方式

Samusungはこの方法でスマホ用の高画質有機ELパネルを生産しており、現時点では最も高性能な有機ELパネルを作ることができます。この方式の弱点は、大型の有機ELパネルの製造が技術的に難しく、不向きであること、メタルマスクに付着した高価な発光材料が無駄になり、コストアップになることなどが挙げられます。

AMOLEDについてこちらの記事で紹介しています。

カラーフィルター方式(白色蒸着方式)

もう一つの方法は、白色蒸着方式(またはカラーフィルター方式)で、パネル基板全面に発光材料を蒸着する方法です。この時にRGBの発光層を積層し、電流を流して発光させることにより、白色を作り出します。このままでは全面白色に発光するだけですので、サブピクセルを作るために、液晶ディスプレイと同様にカラーフィルターを使用します。

この方法ならば大型の有機ELパネルを製造することができます。主にLGが大型テレビ用の有機ELパネルをこの方法で製造しています。この方法の弱点としては、カラーフィルターを使用するために効率が低くなることなどが挙げられます。

有機ELテレビの焼き付きについてこちらの記事で紹介しています。

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有機ELの印刷方式のメリットとデメリット!

最も新しい有機ELパネルの製造方法が印刷(インクジェット)方式です。これはインクジェットプリンターで印刷することと同じように、有機ELパネルの各画素をインクジェットで印刷します。

ソニーとパナソニックの技術を継承したJOLEDが、印刷方式で有機ELパネルの作製に成功しました。これをASUSTeK Computer Inc.(ASUS)へ、21.6型4K高精細の印刷方式有機ELディスプレイパネルのサンプルとして、提供を開始したと2018年1月に同社サイトで公表しています。

印刷方式のメリットは、高価な発光材料の損失も減らすことができ、また減圧して蒸着するプロセスが不要となるため、設備投資や材料コスト・製造コストの低減が期待できることです。現時点でどのレベルまで進んでいるのかは不明です。

今後は、多くの製造装置メーカーも参入してくると考えられ、さらに製造効率が向上すると期待されます。

印刷方式のデメリットは、青色の発光効率が低いこと、寿命・耐久性が低いこと、画素密度が低いことです。これらは印刷方式に限らず有機EL全般に言えることなのですが、印刷方式と蒸着方式を比較すると両者を比較すると印刷方式の方が劣るようです。

画素密度については、JOLEDにより22型4Kで204 ppiのモニターまで製品化されています。今後さらに改良が進み、タブレットレベル(300ppi以上)まで製品化される可能性があります。しかし、ハイエンドスマホレベル(400ppi)はかなり困難です。

逆の言い方をすれば、ハイエンドスマホレベルの高画素密度でなければ印刷方式でも作れると言えます。特に蒸着方式が苦手な大画面ほど、印刷方式は得意なので、まずはサイズごとに住み分けが進む可能性が高いです。

どうしてもデメリットはメーカーがあまり明確に発表しないため、分かり難い点もあります。しかし、これは現状であり、今後開発を進めていけばさらに改良される可能性はあります。

有機ELの発光材料とは?世代?

有機ELとは、有機化合物のエレクトロルミネッセンスを利用したもので、一般に発光層が有機化合物からなる発光ダイオードの構成となっているため、英語ではOrganic Light Emitting Diode (OLED)と呼ばれます。この電流を流して発光する(*これがエレクトロルミネッセンス)有機化合物が、発光材料です。

発光層に電流を流すと、発光材料が正孔と電子の電荷を受け取り、再結合することによって2つの励起状態が形成されます。それらは一重項励起子と三重項励起子で、その比率は25%と75%です。一重項状態から基底状態に遷移する時に放出されるのが蛍光で、三重項状態から基底状態に遷移する時に放出されるのが燐光です。

初期の有機ELは、蛍光を利用するもので、前述のように励起により生成される割合が25%が上限となるため、発光効率をこれ以上に高めることが困難でした。この蛍光材料による有機ELを第1世代の有機ELと呼びます。

次に燐光を利用する有機ELが開発され、これを第2世代と呼びます。前述のように励起により三重項励起子が75%生成されますので、これだけでも蛍光の3倍の効率が期待できます。さらにイリジウム,白金,オスミウムなどの金属を有する有機金属化合物を用いることによって、「項間交差」が促進され、一重項励起子を三重項励起子に変換することができ、加えた電荷のほぼ100%を燐光に利用することができます。

燐光を利用した有機ELは非常に発光効率が高いのですが、現状では赤色と緑色の発光材料しか実用化してなく、青色については寿命等の特性から実用化していません。そのため青色については蛍光を利用する発光材料がもちいられています。

また燐光を利用する発光材料は、イリジウム,白金,オスミウムなどの金属を利用するため、高価という課題もあります。

そこで近年注目を集めているのが、第3世代の有機ELです。これはい熱活性化遅延蛍光(TADF:Thermally Activated Delayed Fluorescence)材料を利用したものです。TADF材料は、一重項励起準位(T1)と三重項励起準位(S1)が近いため、三重項励起子を一重項励起子に変換することができ、一重項励起子からの蛍光として電気エネルギーを100%近く利用することができます。現状では、長寿命化の難しさなどから、ディスプレイ用途には実用化できていません。

この他に、TADF材料と蛍光材料を混合し、TADF材料をエネルギーの受け渡しのみに使った第4世代の有機ELや、TADF材料と燐光材料を混合した第2.5世代などがあります。

有機ELの発光材料は出光が強い?

出光興産は1985年から有機ELの発光材料の研究を開始しました。その高い技術力から、多くの優れた材料を開発し、フルラインアップの材料群を強みとして、LGやSamsungに供給しています。同分野では世界シェアトップと言われています。

平成30年度全国発明表彰において有機EL素子及び有機発光媒体の発明(特許第4221050号)で「恩賜発明賞」と「発明実施功績賞」を受賞しています。

中でもその高い技術力を象徴するのが、「出光ブルー」と呼ばれる青色の発光材料です。これの実用化に成功したことが、現在の高画質有機ELの普及に大きく貢献しました。2020年には中国にも工場を稼働させ、さらなる有機ELの普及に貢献するようです。

有機ELの発光材料の今後は?

有機ELの発光材料は今後どのようになっていくのでしょうか?

すでに多くの有機ELパネルが製造されていますので、製品レベルでは製造設備の増強・新設などにより、コストダウンを進めていくと予想されます。貴金属の使用がコストアップの要因の一つですので、少しでも貴金属の使用量を減らす研究開発も進められていくでしょう。

予測が難しいのが、まだ高画質ディスプレイ用に実用化できていないTADF材料の実用化時期です。現在、九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)から開発成果の独占実施権を得たベンチャー企業のKyuluxが、LGおよびSamsungと共同開発契約を締結したと発表されています。

LGおよびSamsungは、有機ELパネル&ディスプレイのトップメーカーですが、有機ELの発光材料については、出光興産やMerckなどの材料メーカーが製造・供給しているわけですので、材料開発そのものはKyuluxにかかっていると推測されます。今後に期待です。

有機ELを印刷方式で作る時の発光材料は?

冒頭で述べましたように、GalaxyやiPhone、各社の大型テレビは、蒸着方式で低分子系の発光材料を使用して製造したものです。蒸着方式では、メタルマスクによる発光材料の損失が多かったり、真空下で蒸着を行うための装置が高額で、そのプロセスにもコストがかかるなどの課題があります。

なぜ印刷方式が注目されているのかと言うと、メタルマスクを使用せずにRGB(赤・緑・青)のサブピクセルの塗分けが可能で、真空・減圧などのプロセスが不要であるためです。大幅に発光材料の損失を減らし、製造設備の簡略化・製造プロセスの改善によるコスト削減が期待できます。

このような魅力のある印刷方式では、インクジェットプリンターと同様に印刷するためのインクが必要となります。これらのインクは、高分子(ポリマー)系の発光材料です。高分子系の発光材料は、分子設計により溶剤に溶けるようにすることができ、インクとすることが可能です。これをインクジェット用のヘッドで、有機ELパネルのサブピクセルごとに正確に塗布していきます。溶剤はすぐに揮発し、発光材料は定着します。

有機ELを印刷方式用高分子系発光材料で作るメリットは?

有機ELを印刷方式用高分子系発光材料で作るメリットは、前述の印刷方式によるメリットに加えて素子構造を簡単にできる点にもあります。

低分子系発光材料を蒸着方式で有機ELの素子にした場合は、通常は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などの5層以上の積層構造となる。しかし、高分子系発光材料の場合は、正孔注入層と発光層などの2~3層という簡単な積層構造で済みます。

これは高分子系の場合、一つの分子の中に、発光性・電子輸送性・正孔輸送性を有する構造をすべて組み込み、これらのバランス(比率)も調整できるためです。これが高分子化学の優れている点です。

積層する層数を減らすことができれば、製造コストを大幅に減らすことができる可能性があることは言うまでもありません。

有機ELの印刷方式用高分子系発光材料は住友化学が強い!

印刷方式による有機ELディスプレイは、現時点ではJOLEDが発売したばかりですので、これから市場ができて成長していく段階です。そのため印刷方式用高分子系発光材料の市場シェアも、まだ十分なデータがあるわけではありません。高分子系発光材料は、住友化学やMerckなどが販売しているようですが、これらの相互の比較・シェアも不明です。

それぞれの企業が公表している情報や国際会議での発表論文などから、住友化学が開発し、販売している高分子系発光材料は優れた特性のもののようです。

同社は1989年頃に共役系高分子を用いた発光材料による有機EL発光を報告しています。それ以来、30年近くも研究開発を続け、ようやく高分子系発光材料が有機ELの最先端の材料として立ち上がろうとしているわけです。ポリイミドにしても同様ですが、このように考えると材料開発の時間軸の長さを感じます。これほどの長い期間、地道に研究開発を継続しないと、市場が開けないわけです。もちろん長期間研究開発を続けたからと言っても、事業として成功しないリスクもあります。

現在のディスプレイ産業で使用される材料の多くは、日本メーカーが供給していることを考えると、今後も日本は根気強く材料開発を継続すべきと思います。

有機ELの印刷方式の製造装置はどこが作っている?

現在のような高画質の液晶ディスプレイの研究開発は主に日本企業が先導してきて、大量生産を実現しました。そしてその製造装置を、製造装置メーカーが韓国、台湾、中国に販売し、猛烈なキャッチアップを受けるようになりました。

蒸着方式の有機ELディスプレイについても日本企業が研究開発をリードしてきましたが、日本のディスプレイ企業の苦境もあり、大規模な有機ELパネル生産工場への投資には踏み切りませんでした。韓国のSamusungはスマホ用有機ELパネル、LGは大型テレビ用の有機ELパネルの生産工場へ大規模な投資をし、現在の有機ELディスプレイの普及を実現しています。

しかし、日本メーカーが完全に有機ELパネルの製造から撤退したわけではありません。SamsungとLGの動向を見て、同じ技術で勝負するのではなく、さらに先を行く印刷方式に注力したわけです。実際に印刷方式に注力していた日本企業がパナソニックです。2015年に産業革新機構主導で、ジャパンディスプレイ(JDI)、ソニー、パナソニックの有機EL事業を統合してJOLEDが設立されました。印刷方式の有機ELの製造もJOLEDに引き継がれ、パナソニック プロダクションエンジニアリングと共同で開発が進められました。2017年12月に、JOLEDは、パイロットラインで製造する21.6型4K有機ELディスプレイを、医療用モニターやハイエンドモニター向けに出荷開始しました。

このような経緯から、JOLEDを中心としたグループが印刷方式の製造技術を確立していることは間違いありません(*改善の余地がないという意味ではありません)。まだ印刷方式の製造装置が複数の製造装置メーカーから販売されるような状況ではないですが、最近、東京エレクトロンが印刷方式の製造装置を発売しました。これらについて、さらに次項以降で解説します。

有機ELの印刷方式による世界初の製品はJOLEDから

前述のように、世界初の印刷方式の有機ELディスプレイの量産化はJOLEDが行いました。展示会等で実際に目で見て確認できる有機ELディスプレイを見ても、印刷方式によるJOLEDの有機ELディスプレイが高画質であることは間違いありません。現時点では、印刷方式の有機ELパネルの量産技術として世界最高峰でしょう。

その量産技術を、JOLEDは自社内に囲い込むのではなく、「技術ライセンスする」という戦略を選択しました。つまり、JOLEDは印刷方式有機ELディスプレイ製造技術の提供や、技術導入のサポートなどを行います。パナソニック プロダクションエンジニアリングは、顧客ニーズに合わせた印刷設備の設計・開発を担います。さらにSCREENファインテックソリューションズは、パナソニック プロダクションエンジニアリングからのライセンスのもと、印刷設備の製造を行うほか、販売・メンテナンスなどのサービスをJOLEDと共に展開していきます。

JOLEDのこの戦略が吉と出るのかよく分かりませんが、苦労して築き上げた技術的なアドバンテージを自ら捨て去るような印象も受けますが、有機ELパネル製造のための大規模な投資競争では不利と判断し、このような戦略を採らざるを得ないのかもしれません。

有機ELの印刷方式の製造装置は東京エレクトロンから

有機ELの印刷方式の製造装置は、東京エレクトロンが販売を開始したと2018年10月16日に同社のサイトでアナウンスしました。商品名は、有機ELディスプレイ製造用インクジェット描画装置「Elius 1000」です。G4.5 (最大730×920mm) 基板に対応した装置で、200ppiを超える高解像度への対応も可能とのことです。

台湾のAU Optronics(AUO)は、このほど東京エレクトロンからこの製造装置を購入したことを明らかにしています。製造装置メーカーもこのような装置を研究開発し、発売するわけですので、ある程度のニーズがあることは間違いないようです。

東京エレクトロンは、日本のディスプレイの国際会議IDW’18にて、本装置の印刷ムラを抑える機能について発表していますので、印刷方式の課題の一つである印刷ムラについては、ある程度のレベルまで改善されていると考えられます。

印刷方式による有機ELの大きな課題である焼き付き寿命については、まだ確認できるデータが公表されていません。どのような用途の有機ELディスプレイであれば、要求特性を満たすものが製造可能なのか興味がありますね。

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