量子ドットディスプレイが普及し始めています。日本でも本格的に販売が始まりましたが、世界ではすでに多くの量子ドットディスプレイが販売されています。
ところで量子ドットディスプレイとは、そもそもどのようなものなのでしょうか?従来のディスプレイとの違いはどのようなものなのでしょうか?デメリットは無いのでしょうか?
量子ドットディスプレイとは、量子ドット(QD)と呼ばれるナノサイズの半導体粒子を用いたディスプレイのことで、広い意味ではいくつかの方式のディスプレイを指します。
しかし、製品として販売されているディスプレイとしては、通常は「液晶ディスプレイに量子ドットシートを組み込んだもの」を指します。メーカーによっては「QLED」と呼んでいる場合もあります。
2022年からQD-OLEDと呼ばれる有機EL(OLED)と量子ドット(QD)を組み合わせた方式の製品の販売も始まりますので、これも量子ドットディスプレイとして受け入れられていくと予想されます。
2022年時点で量子ドットの主なデメリットと考えられていることは、「高効率なものは毒性の高いカドミウムを含み、含まないものはまだ効率が低いこと」、「耐久性が低く、バリアフィルムが必要となり、コストアップになること」、「広色域化できる材料ではあるものの、無機の蛍光体と比べてそれほど大きな差がないこと」などです。
現在、これらのデメリットを改善するための活発な研究開発が進められており、急速に進歩する可能性がありますので、注意深くその進歩を把握していく必要があります。
量子ドットディスプレイについて、もしまだ詳しくご存じないようでしたら、以下に紹介しますのでご覧ください。
また日本国内で購入できる量子ドットテレビ(QLEDテレビとQD-OLEDテレビ)と量子ドットモニター(QLEDモニターとQD-OLEDモニター)についても紹介します。
*2023年7月22日時点で、国内で販売されている量子ドットテレビの中で高性能で安いテレビとしてはハイセンスU8Kシリーズがおすすめです!
さらに詳しく紹介します。
量子ドットディスプレイの原理は?わかりやすく解説!
量子ドットとは?
量子ドットディスプレイは、その名の通り「量子ドット」を使用したディスプレイですので、まず「量子ドット」について説明しなければなりません。量子ドットはディスプレイ以外にもいくつかの用途があるのですが、ここではディスプレイ用の量子ドットに話を限定します。
ある種の半導体結晶では、光を吸収し、より長波長の光を放出する「蛍光」が観測されるものがあります。吸収される励起光の波長と蛍光の波長は、半導体化合物の種類・結晶構造などにより決まる物質固有の性質です。
発光ダイオード(LED)の発光波長が、使用する半導体化合物の種類・結晶構造で決まることと同様で、それはそのバンドギャップによるためです。
これはいわゆる「バルク状態」での性質です。ところがこの半導体化合物を小さくしていき、数nm~10 nmという極めて小さなサイズになると、構成する原子の数が50個程度以下になり、量子閉じ込め効果により、前述のバンドギャップを形成していたエネルギー順位も離散的になります。そのため半導体化合物の大きさ(直径)によって蛍光の波長が変わるようになります。
量子ドットディスプレイでは、フルカラー表示をするために、青色の光を照射して励起すると、3原色のうちの赤色と緑色を蛍光として放出する性質の量子ドットを主に使用しています。これらはそれぞれ異なる直径で精密に作製されています。
紫外線を照射することで赤色・緑色・青色を放出するタイプの量子ドットも作製されています。
量子ドットディスプレイとは?違いは?液晶ディスプレイ?QLED?構造は?
基本的には青色LEDからの光を量子ドットに照射し、赤色と緑色を作り出し、透過する青色光と混ぜ合わせて白色とし、それを液晶ディスプレイのバックライトとして用いることが多いです。そのため、一般に量子ドットディスプレイと言えば、以下の製品のように「量子ドットを用いた液晶ディスプレイ」のことを指します。
液晶ディスプレイ内部で量子ドットを用いる方法はいくつか報告されていますが、製品として採用されたのはバックライト部分に用いる方法で、2種類の方式があります。
【量子ドットフィルムを使用する方法】
1つはプラスチックフィルム中に量子ドットを添加し、そのフィルムをバックライトの出射面に配置して、青色LEDを光源としたものです。
液晶ディスプレイは、液晶パネルそのものは自ら発光しませんので、その背面にバックライトと呼ばれる面状の光源が配置されていて、液晶パネルを均一に照らしています。このバックライトの上部あるいは内部に量子ドットフィルムを配置するという構造になっています。
従来の液晶ディスプレイの構造を大きく変更することなく、量子ドットを活用できる点が強味です。
【ガラス管に封入した量子ドットを使用する方法】
もう1つは、量子ドットをガラス管に封入し、それをエッジライト式バックライトの導光板の入光部分に配置し、青色LEDで照射するものです。
バックライトの方式は大きく分けるとエッジライト式と直下式があります。エッジライト式では導光板と呼ばれる透明な板状の部品が入っていて、その端(エッジ)からLEDの光を入射させます。この方式では、量子ドットを封入したガラス管を導光板の光を入射させる面とLEDの間に置くことで、LEDからの青色光を赤色・緑色の光に変換し、入射させることができます。
この方式の欠点は、エッジライト式には組み込みやすいのですが、直下式には組み込みにくいこと、ガラス管の太さ分だけテレビの額縁部分が広くなってしまうことなどが挙げられます。
現在のハイエンド液晶テレビでは、直下式バックライトが主流で、額縁部分も非常に狭くなっているので、採用が広がらなかったのでしょう。
後者の方法は、ソニーがテレビで採用しましたが、その後継機からは採用されず、他のメーカーも採用していないようです。したがって、現時点で量子ドットディスプレイとして採用されているのは、前者の量子ドットを添加したプラスチックフィルムを用いる方法です。
日本では、日立化成が量子ドットフィルムを事業化しています。
量子ドットフィルムを用いた液晶テレビにもっとも早くから注力してきたのがサムスンです。LGの有機ELテレビ(OLED TV)に対抗するために、マーケティング的な観点から「QLED」と名付けて積極的に進めてきました。
現在は、中国のテレビメーカーTCLが積極的に量子ドットテレビ(QLED)に力を入れ、日本国内で販売しています(*「量子ドットLED技術「QLED」を採用したTCLの4Kテレビがついに日本上陸!」)。TCLが日本国内で販売するQLEDについては下記で紹介します。
*韓国サムスンは、次世代ディスプレイとして量子ドットと青色有機ELを組み合わせた「QD-OLED」を開発し、2022年から発売しました。サムスンのQD-OLEDパネルを搭載した有機ELテレビを2022年にソニーが発売しました。これについては下記で改めて紹介します。
*最先端のディスプレイである「マイクロLEDディスプレイ」にはいくつかのタイプがありますが、青色マイクロLEDアレイに緑色と赤色の量子ドットを組み合わせたタイプをシャープなどが開発しています。詳しくはこちらの記事「マイクロLEDディスプレイの最新情報!実用化は?課題は?」で紹介しています。
量子ドットディスプレイの特徴は?メリットは広色域化
前述のように、現時点では量子ドットを添加したプラスチックフィルム(量子ドットフィルム)を液晶ディスプレイ用バックライトの出射面に配置する構成が製品として採用されていますので、ここではその方式についての特徴を述べます。もちろん量子ドットそのものについては、他の方式と共通する部分もあります。
液晶ディスプレイは、非常に多くの部材から構成されており、それらの水平分業化も進んでいます。国際的な競争も熾烈で、高い製造効率が要求され、利益率も低くなっています。
そのような状況で、これまでの製造工程・生産ラインを大きく変更するような方法は、たとえ優れた製品ができるとしてもコストが高くなりやすく、採用が難しいものです。しかし、量子ドットフィルムであれば、バックライトの出射面に配置して、光源を白色LEDから青色LEDに変更すれば良いだけですので、採用しやすいです。
量子ドットの直径(粒形)を精密に制御すれば、放出される蛍光の波長スペクトル幅も非常に狭いものが得られます。3原色のそれぞれの波長スペクトル幅が狭いほど色純度が高くなり、それらを混色して作り出せる色域(色数)は広がります。
つまりディスプレイの広色域化が可能になります。現時点で販売されている製品としては、量子ドットディスプレイがもっとも広色域です。
原理的には、さらに量子ドットの大きさをそろえる(粒度分布を狭くする)ことによって、蛍光の波長スペクトルを狭くし、さらなる広色域化が可能になりますので、多くのメーカーがその研究開発に取り組んでいます。
量子ドットテレビとモニターのデメリット・欠点・課題は?
優れた特徴をもつ量子ドットディスプレイですが、課題もいくつか指摘されています。主な課題は以下です。
1.カドミウム(Cd)の毒性
2.耐久性と価格
3.色域
これらについてさらに詳しく解説します。
カドミウム(Cd)の毒性
量子ドットディスプレイは、量子ドットが励起光を吸収し、それを赤色と緑色の波長の光として放出します。このプロセスの効率がもっとも高い化合物は、現時点ではカドミウムを含んだ化合物(CdSe)です。
カドミウムは毒性が強いため、欧州などの国々で規制されています。そのためカドミウムを使用しない「カドミウムフリー」の量子ドットの開発が進められていますが、それらはすべてカドミウムを用いた量子ドットよりも効率が低下してしまいます。
カドミウムフリーの量子ドットとカドミウムを含む量子ドットを混合し、実質的なカドミウム含有濃度を下げる工夫などもされていますが、テレビなどのディスプレイにカドミウムを使用することへの抵抗感はかなり高いようです。
カドミウムフリーの量子ドットとしては、InPが主流です。また高性能のペロブスカイト型の量子ドットの開発が進んでいて、そろそろ製品が液晶ディスプレイに搭載されるようです。
耐久性と価格
量子ドットは、水分、酸素などにも弱く、耐久性がそれほど高くありません。そのため量子ドットを添加したフィルムを両面から挟み込むようにしてバリアフィルムが使用され、水分・酸素などから量子ドットを保護しています。しかし、バリアフィルムの性能が高いものほど価格が高く、コストアップの原因となっています。
地道に耐久性も改善されていて、向上した分だけバリアフィルムの性能を落とし、コストダウンする努力が続けられています。
色域
量子ドットを用いることで、製品として販売されている液晶ディスプレイの中でもトップレベルの広色域を達成していることは間違いありません。しかし、量子ドットのポテンシャルから考えた時に、量子ドットを使用した割には色域の拡大がそれほど大きくないという課題があります。
広色域赤色蛍光体であるKSFなどを使用したLEDを用いた場合と比べても、色域の差はそれほど大きくはありません。量子ドットのポテンシャルから考えたら、さらに粒形制御を厳密にして、さらなる広色域化に期待したいところです。
量子ドットテレビのおすすめは?
日本国内では、TCLが量子ドットを搭載した液晶テレビを数年前から発売し、シャープがそれに続いて2021年12月に、シャープが量子ドット搭載テレビAQUOS XLEDを発売しました。ソニーとREGZA、ハイセンスも量子ドットテレビを2022年モデルにラインナップしましたので、これからはハイエンド液晶テレビには量子ドットが標準になるのかもしれません。
ハイセンスの量子ドット搭載テレビU8K
ハイセンス(Hisense)は中国のテレビメーカーです。東芝レグザを作っていた旧東芝映像ソリューションを買収し、その技術を活用して急速に画質を向上させました。「廉価版レグザ」という評判も聞かれます。
そのハイセンスが発売した新型の2023年モデルの液晶テレビ。ラインアップのフラッグシップがU8Kシリーズです。
量子ドットとMiniLEDバックライトを搭載し、コントラストが高く、色域が広い魅力的なテレビに仕上がっています!
量子ドットテレビ!シャープアクオスXLED 4T-C55DP1
シャープが最先端の技術を結集して開発したのがAQUOS XLEDで、その内の4KテレビがDP1ラインです。
他社がラインナップのハイエンドを有機ELテレビとしている中で、シャープはやはり液晶テレビをフラッグシップにしています。
それだけに性能的に妥協を許さず、量子ドットとMiniLEDバックライトを搭載し、現在の技術で実現し得る最高峰の液晶テレビを作り上げました。
実際、液晶の弱点と言われる「黒浮き」がほとんどわかりません。量子ドットの力で色域も広いです。現在国内で販売されている量子ドットディスプレイの最高峰級と言えるでしょう。
AQUOS LEDについてはこちらの記事で紹介しています。
【激安】TCLのQLED搭載テレビC835とC735とC636
日本国内でTCLが積極的に量子ドットLED技術「QLED」を搭載した液晶テレビを販売しています。
【C835シリーズ】
TCLの835シリーズは、Mini LEDバックライトと量子ドットLED技術「QLED」を採用した最新(2022年モデル)の4K液晶テレビのフラッグシップモデルです。
最新の映像エンジン「Algoエンジン Max」のパワーで、Mini LEDバックライトをローカルディミングし、高画質の映像を作り出します。
もちろん倍速駆動 120Hz対応ですし、Dolby Vision/HDR10/HLG対応、Dolby Atmos、ゲームモードALLM(自動低遅延)対応、Google TVです。フルスクリーン/低反射パネル採用で美しい映像を楽しめます。
【C735シリーズ】
TCLの735シリーズは、量子ドットLED技術「QLED」を採用した最新(2022年モデル)の4K液晶テレビです。
「マイクロディミング」機能を搭載し、Dolby Vision/HDR10/HLG対応で、メリハリのある美しい映像表示が可能です。
120Hz倍速駆動技術を搭載し、HDMI2.1 eARCに対応しているため、高速応答が要求されるゲーム機にも最適です。
このスペックでこの価格は衝撃です!お買い得な機種です!
【C636シリーズ】
前述のC735シリーズのワンランク下の機種です。日本で販売されている2022年モデルの量子ドットテレビで、もっとも安い機種の内の1つです!
【Amazon.co.jp 限定】TCL 50C636 50インチ 4K 液晶テレビ スマートテレビ(Google TV) 4Kチューナー内蔵 2022年モデル
REGZA(レグザ)Z875L/Z870L
画質に定評があり、多くのファンが支持するREGZA(レグザ)。2022年モデルとして満を持して発売するのがZ875L/Z870Lシリーズです。
量子ドットとMini LEDバックライトを搭載した4K液晶テレビのフラッグシップモデルです。
SONYブラビアA95K!日本初のQD-OLEDテレビ!
サムスンが世界で初めて開発・量産化するQD-OLEDパネルを搭載し、日本で初めてテレビとして発売するのはSONYです!A95Kシリーズとして、2022年7月16日発売です!
これは量子ドットテレビなのですが、前述のように一般的な液晶テレビと組み合わせたものではなく、OLEDパネルと組み合わせた世界初の方式です。
スペックからは、世界最高峰の画質のテレビとなることは間違いないでしょう!
量子ドットモニターのおすすめは?
量子ドットモニター!MSI MPG ARTYMIS 273CQRX-QD 量子ドットゲーミングモニター
MSIが発売した高性能27型湾曲ゲーミングモニターで、量子ドット技術を搭載しています。
パネルはVA液晶の曲面パネルで、240Hz表示・HDR400対応です。
色域:sRGBカバー率:99% / AdobeRGBカバー率:93% / DCI-P3カバー率:95%
最大表示色:約10億7,300万色、視野角:178°(H) × 178°(V)の広色域モデルです!
量子ドットモニター!I-O DATA QLED液晶ディスプレイ「PhotoCrysta」
日本国内でアイ・オー・データ(I-O DATA)が量子ドットを搭載した液晶ディスプレイモニター「PhotoCrysta」 を販売しています。
AdobeRGBカバー率99%、sRGBカバー率100%(※標準値。アイ・オー・データ調べ)の広色域に対応です。
パソコン用液晶モニターとしては、「HP Pavilion 27 QHD 量子ドットディスプレイ」が他社に先んじて発売されたため、注目されました。
楽天市場などのショッピングサイトではまだ販売されていますが、HPの直販サイトでは「完売御礼」になっていますので、在庫限りかもしれません。
QD-OLEDモニター!Dell AW3423DW 34.18インチ
QD-OLEDという最先端の量子ドットディスプレイパネルを搭載したモニターです!
曲面(1800R)パネルで、最大解像度3440×1440(最大175Hz) [応答速度]0.1ms(GtoG) [アスペクト比]21:9 [コントラスト比]1000000:1 [輝度]1000cd/㎡ [色深度]10億7,000万色です。
色域はDCI-P3 99.3%です。無輝点3年保証です。
非常に注目されているモニターです!
量子ドットと有機ELの比較
QLEDとOLEDの比較!違いは?
前述のように現時点では、量子ドットディスプレイと言えば、液晶テレビのバックライト部分に量子ドットフィルムを組み込んだもので、QLEDと呼ばれている液晶テレビのことです。
「有機EL」=「OLED」に比べると、量子ドットのおかげでQLEDの方が広色域(表示できる色数が多い)な機種が多いです。
またQLEDは液晶ディスプレイ(LCD)ですので、色域以外ではLCDとOLEDの違い・比較ということになります。したがって、QLEDはOLEDに比べて高輝度です。これはディスプレイにとっては非常に重要な長所です。
QLEDは、LCDですので、コントラストがOLEDに劣る機種が多いです。特にしっかりした黒の表示が苦手とされてきました。それでも分割駆動(ローカルディミング)対応の直下型バックライトを用いることでかなり改善しています。
最近は前述のシャープAQUOS XLEDのように、MiniLEDバックライトを搭載したLCDが登場していますが、MiniLEDバックライトによりQLEDもOLEDレベルの高コントラストになります。
QD-OLEDの原理は?メリットは?有機ELにも量子ドットが搭載される
これまでは液晶ディスプレイに量子ドットを搭載したものが製品化されてきましたが、実は有機ELにも量子ドットを搭載することができます。
有機ELで青色のみを発光させ、赤色と緑色を発光させたいサブピクセル部分にだけ、青色を吸収して赤色または緑色に発光する量子ドットを配置すればよいわけです。
QD-OLEDになると色域も広くなります!
つまり、大まかに言えば、液晶ディスプレイに対する有機ELディスプレイの長所に加えて、量子ドットの長所が活かせるわけです。
実は、この方式・原理でディスプレイを製品化したのがQD-OLEDです。サムスンが開発し、2022年からテレビとして発売しますし、ソニーにもQD-OLEDパネルを供給し、ソニーがテレビとして2022年7月から発売しました。
まとめ
量子ドットディスプレイの原理から、特徴と課題までを簡単に解説しました。量子ドットは、現時点で広色域ディスプレイ実現のためのもっとも有望な技術ですので、今後に期待したいです。
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