ディスプレイの画質が向上し、リアルで色鮮やかな映像が楽しめるようになりました。ディスプレイが表示できる色の領域(色数の範囲)を表す用語として、「色域」という言葉が使用されています。
また色域の規格としてDCI-P3、Rec.2020、Adobe RGB、sRGB、NTSCをよく耳にするようになりました。これらはどのようなものでしょうか?
色度図を用いてこれらを図示し、利用される分野と広色域ディスプレイの開発動向などともに以下に簡単に紹介します。
*現在販売されているテレビの中で、もっとも広色域なモデルの1つが以下のソニーブラビアA95Kシリーズです!QD-OLEDと呼ばれる新しい方式のディスプレイパネルを搭載し、日本初めて発売されたテレビです。
有機EL(OLED)と量子ドット(QD)を組み合わせた方式で、製品としては史上最高レベルの広色域となっているようです(*製品のスペックとしての公式発表は確認できていないため、QD-OLEDパネルについての国際会議発表論文から推定)。
A95Lはかなり高いですが、前モデルのA95Kはかなり安くなっています!
ディスプレイの画質を決める要素についてこちらの記事で紹介しています!
ディスプレイの色域とは?sRGB・NTSC・Adobe RGBとは?
以下の図は、一般にxy色度図といわれるもので、CIE1931色空間を表すものです。色を座標で表すことができます。
ディスプレイで表示するためには、画像のデータが必要です。いろいろな画像をディスプレイで問題なく表示できるようにするために画像データの記録フォーマットを定める必要があり、これらの規格に準拠して記録されています。
これらの色域の規格を見てすぐに分るのは、人間が知覚できる色の領域(色数)の中のかなり限られた色しかカバーされていないということです。
規格と定める色域は、人為的に定めるものですので、理論上はどのような広い色域でも制定することは可能です。しかし、一般に画像はカメラで撮影あるいはCGで作成するなどして作り、ストレージに記録し、光ファイバー・ケーブル・無線等で伝送し、それをディスプレイで表示するなどしますので、これらの技術レベルとかけ離れたものでは意味がありません。利用可能な技術で取り扱うことができる色の範囲に合わせて制定されています。
ここで掲載しているsRGB、NTSC、Adobe RGBは、従来から使用されてきたもので、最新の広色域技術に対応する色域については次項以降で紹介します。
sRGBは、国際標準化団体のIEC(国際電気標準会議)が1998年に制定した標準規格です。モニター、プリンター、デジタルカメラなどに広く使用されています。
技術の進歩とともに取り扱うことができる色が増えてきます。そこでAdobe Systemsが提唱したのがAdobe RGBです。sRGBよりも格段に広い色域を持ち、特にDTPの分野などではすでに標準の色域となっています。
NTSCは、アメリカの国家テレビ標準化委員会が作成したもので、アナログテレビ方式の色域規格です。
sRGBとAdobe RGBが主にテレビではなく、モニター等に使用されているのに対し、NTSCがなぜ同じように使われているのかというと、液晶ディスプレイがモニターに使用されるまでは、ブラウン管のモニターが使われていたためです。しかし、ブラウン管のモニターがNTSCの色域をすべてカバーしていたわけではなく、その72%程度をカバーしていたにすぎません。
つまり、従来のディスプレイでは、表示できる色域(色数)が非常に限られていたわけです。しかし、近年はディスプレイ技術の進歩とともに、広色域対応のディスプレイが登場してきました。
ディスプレイの色域のRec.2020とRec.709とは?
従来の地デジ(ハイビジョン放送)では、下図のRec.709(日本ではBT.709と呼ばれることが多い)の色域でした。これは前述のsRGBと同じ色域です。
実は、Rec.2020の色域をすべて表示できるディスプレイは製品化されてなく、試作レベルでカバー率98%のものがあるだけで、実用化できそうなディスプレイの色域としては究極のものと言って良いでしょう。この色域に合わせて、撮影、記録、表示することができるようになれば、「同じ画像なのに表示するディスプレイによって色が異なる」などということは無くなるかもしれません。
ディスプレイの色域のDCI-P3とは?Display P3との違いは?sRGB・Adobe RGBと比較!
前述の色域の他にDCI-P3という規格があります。これはデジタルシネマ向けの規格で、ハリウッドの7大映画スタジオからなるDigital Cinema Initiativesが提唱しています。(*DCI P3という表記も見かけますが、DCI-P3の方が多いようです)
以下の色度図に、DCI-P3とAdobeRGB、NTSC、sRGBの色域を比較できるように図示しました。
印刷、放送、映画などの業界では、いずれも映像・画像を取り扱うとはいえ、使用機材や作業内容が異なりますので、自らが使いやすいような規格を定めようとするわけです。
最近はブロードバンドネットワークが普及し、スマホやタブレットも多くの人が利用するようになりました。そのため、スマホやタブレットから印刷したり、それらでテレビや映画を見たりする機会も増えてきました。そうなると業界ごとの色域の区別は、スマホやタブレットを使う際にはあまり境界が無くなってきています。
Appleは、Display P3という色空間をiPhone 7以降のiPhoneに導入しています。これは色域としてはDCI-P3と同じで、ガンマと白色点がsRGBと同様になっています。
このように技術の進歩とともにより広色域対応になる方向で進んでいますが、技術的に広色域化もまだまだ難しいため、いくつかの色域が制定されて使用されています。
DCI-P3カバー率
最近のスマートフォンやモニターなどのディスプレイ製品では、「DCI-P3カバー率」という指標が記載されていることがあります。
これはDCI-P3の色域の何%をカバーしている(表示できる)のかということを示す指標です。なぜなら、製品レベルではDCI-P3の色域を完全にカバーできるものがほとんど無いためです。
注意したいのが、前述の色度図上での色域の三角形の面積の比較だけして、DCI-P3比〇〇%という表記もあり、これは「カバーしている面積」ではない場合もあるということです。
広色域ディスプレイの開発動向
前述の4K/8K放送の放送規格であるRec.2020(日本ではBT.2020と呼ばれることが多い)については、この広大な色域を完全にカバーできる(表示できる)ディスプレイは製品として世の中に存在していません。原理的には赤色・緑色・青色(RGB)の3原色の光源に規格で定められた波長のレーザーを使う方法しか現状では考えられません。
以前、三菱電機がRGBにレーザーダイオード(LD)を使用した液晶ディスプレイを試作し、SIDでの国際会議発表やNHK技研での展示発表を行いましたが、それでもRec.2020の色域のカバー率は98%程度であったと思います。それだけ技術的にも実現が難しい広い色域であるということを知っておいた方が良いでしょう。
三菱電機は、赤色のみLDを使用する液晶テレビを販売していましたが、現在は販売していません。したがって、現時点ではLDを光源に用いた液晶ディスプレイは製品として販売されていないようです。LEDを用いた液晶ディスプレイの色域は、必ずしも製品ごとに公開されていませんが、Rec.2020の色域とはかなりの隔たりがあると考えられます。
現時点(2024年10月時点)で広色域なテレビと言えば、冒頭で紹介したQD-OLEDを搭載した機種、および量子ドット技術(QLED)を搭載した液晶テレビと考えられます。日本国内では、QD-OLEDテレビはソニーとシャープ、QLEDテレビはシャープやREGZAなどが販売しています。
2022年に発売された前モデルのA95Kもトップレベルの広色域です!
AppleのiPhoneやMacbook、iPadなどが準拠するDCI-P3については、98~100%のカバー率のモニターなどが登場しています。
特にMac用のモニターのハイエンド製品であるApple Studio Displayは、DCI-P3をほぼカバーし、総合的な画質においても現時点で最高レベルのモニターです。
液晶ディスプレイの場合、これらのような広色域化を行うために、現状では広色域対応の蛍光体を用いる方法と、量子ドットを用いる方法の2つが製品として採用されています。
広色域対応の蛍光体については、こちらの記事「液晶の色域はLEDの蛍光体で広げる!KSFとは?YAGとは?」で紹介しています。
ディスプレイの色域を表す色度図としてxy色度図とu’v’色度図がありますが、どちらを用いるのが良いのでしょうか?こちらの記事で紹介しています。
QD-OLEDは広色域!
現在販売されているテレビの中では、ソニーブラビア2022年モデルのA95Kシリーズがもっとも広色域と考えられます!
これはSamsung Displayが開発したQD-OLEDと呼ばれる方式のディスプレイパネルを搭載したテレビで、量子ドット(QD)を活用することで広色域化が可能となっています。
ソニーはA95Kの色域データを公表していませんが、Smasung Displayの発表ではRec.2020のカバー率で90.3%とのことです!
ここまで広色域になると、DCI-P3などの他の色域規格ではカバー率100%になってしまうので、Rec.2020で比較しないと違いがわからないですね。
ディスプレイの色表示性能は色域体積で表す必要性が高まっている!
ディスプレイの色表示性能については、基本的には以上で説明したような色度図上の色域で表せば大丈夫です。
しかし、最近のディスプレイの広色域化・性能向上は目覚ましく、色度図の垂直方向に明るさ(輝度)の軸を追加した色域体積(Color Volume)で表す必要性が高まっています(*あまり専門的になると理解しにくくなるので、ここでは多少厳密さは省略しています)。
実は、表示可能な色の範囲を示す色域は、ディスプレイの輝度によって変化することが明らかになっているためです。つまり、中間的な輝度における色域に比べて、輝度を高くしていく、あるいは輝度を低くしていくと色域が狭くなることがあります。
そのため各輝度における色域がわかるように立体で色表示できる範囲を示すことが必要で、それを色域体積と呼びます。
有機ELテレビの場合、LG Displayがほぼ独占的に製造販売するカラーフィルター方式のOLEDパネルでは、高輝度を達成するために赤色・緑色・青色のサブピクセルの他に白のサブピクセルがあります。そのため高輝度では色域が狭くなる傾向があります。
これと比べるとQD-OLEDでは、白色のサブピクセルがありませんので、高輝度領域でも鮮やかな色が表示できます。高輝度で光り輝くような映像ほど、QD-OLEDの優れた色表示性能が際立つということです。
まとめ
ディスプレイの色域について紹介しました。複数の色域の規格があるために混乱しますが、その特徴と色度図上での領域を比較すれば、違いが分かりやすいでしょう。
ディスプレイの画質を決める要素についてこちらの記事で紹介しています!
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