マイクロLEDディスプレイの製造方法は改善されるのか?製造工程の改良は?製造装置の販売は?

マイクロLED

液晶ディスプレイが普及し、有機ELディスプレイも徐々に普及が始まりました。これらの次に来る次世代のディスプレイとしてマイクロLEDディスプレイが注目されています。

ソニーが世界で最初にテレビサイズの試作品を作り、現在は大型のサイネージ用のディスプレイとして事業化しています。これがテレビやスマホなどのディスプレイとして普及するためには、乗り越えなければならない課題があります。以下に紹介します。

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マイクロLEDディスプレイの製造方法に課題がある

マイクロLEDディスプレイとは、微細な100ミクロン以下のLED素子を並べ、画素として駆動させることによって画像を表示するディスプレイのことです。赤・緑・青それぞれのLED素子を用い、これらをサブピクセルとしています。つまり、これら1組で1画素を形成しています。

原理的にも優れた性能になると期待されていたのですが、ソニーが試作品を作り、非常に高い性能が得られることがディスプレイ業界に知れ渡りました。ソニーは、試作品を発表以降、しばらくこの関連の発表をしなかったため、開発が中止になったのではないかと噂されていましたが、大型のディスプレイシステム「CLEDIS」として2017年から販売を開始し、業界を驚かせました。

これはユニット構成型のスケーラブルなディスプレイシステムで、例えば126ユニット並べて312インチのディスプレイとして使用されたりしています。主に企業のエントランスに置くディスプレイや、ショールーム、車のデザインセンターなどで利用されているようです。

ソニーの事業化に刺激され、多くの企業がマイクロLEDディスプレイディスプレイを、もっと小型の様々な用途のディスプレイとしての利用を目指し、研究開発が進められています。特にAppleがマイクロLEDディスプレイのベンチャー企業を買収したことからも、近い将来にApple Watchに搭載されるのではないかと噂されています。

高性能なマイクロLEDディスプレイの普及を妨げているものは、極めて高い製造コストです。この課題が解決されなければ、多くの一般消費者向けの機器に搭載することはないでしょう。

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マイクロLEDディスプレイの製造方法は改善されるのか?

マイクロLEDディスプレイの製造方法を改善し、製造コストを下げるために、世界中で多くの企業が研究開発を進めています。なぜ製造コストが高いのかを理解することは比較的簡単です。

まずディスプレイにするためには赤・緑・青のサブピクセルを作らなければなりません。赤・緑・青に発光する微細なLED素子をそれぞれ使用するのですが、それらは異なる色の光を発することができるようにそれぞれ異なる結晶構造・化学構造の素子からできています。

以前、青色発光ダイオードの研究開発により、日本人研究者の天野氏・赤池氏・中村氏がノーベル物理学賞を受賞した際に、テレビなどでその内容が大きく報道されたのでご存知の方も多いと思いますが、青色で発光させるために窒化ガリウム(GaN)系結晶を苦心して作製しました。このように特定の波長(色)で発光するLED素子を作るには、それに相応しい結晶構造・化学組成の素子を、それに最適な条件下で作らなければなりません。

そのため、現在の技術では、最終的にマイクロLEDディスプレイとして使用できるような画素配列の状態で、直接、赤・緑・青のサブピクセルを作製できないことにコストが高くなる原因があります。

そのため、赤・緑・青の微細なLED素子を、それぞれ別の基板上で別の装置内で作り、それらをカットして素子を作ります。さらに微細なLED素子をピックアップし、所定の位置に1つずつ運び、配線して実装することになります。これが100個や1000個程度ならばよいのですが、4Kディスプレイでは解像度が3,840×2,160=8,294,400個もあります。約830万個の画素ですが、赤・緑・青のサブピクセルの数に換算するとこの3倍になります。

20年ぐらい前は、パソコンを買った時には画面内に画素欠陥があっても数個程度ならば良品扱いとなっていました。しかし、最近はスマホやパソコン、テレビを購入した時に画素欠陥はほとんどありません。上記の4Kの画素数を考えると、驚異的な不良品の少なさです。したがって、これから登場するマイクロLEDディスプレイも、この水準の不良品率の低さが最初から要求されますので、ハードルが高くなっているわけです。

ここまでいくつかの企業により、前述の作製した微細なLED素子をピックアップして正しく配列させる工程のスピードアップを目指した研究開発が進められているようです。もちろん人手でできることではありませんので、製造装置の開発ということになります。数年前よりも桁違いに速くはなっていますが、まだ十分な製造コストの低減が実現できるレベルには遠いです。

SID2019の発表からみるマイクロLEDディスプレイの課題についてこちらの記事で紹介しています。

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マイクロLEDディスプレイの製造方法改善の鍵は蛍光体か?

赤・緑・青の微細なLED素子を配列したマイクロLEDディスプレイに比べ、1色だけで発光するマイクロLEDディスプレイを作るのはかなり容易です。多くの試作品が複数のメーカーから発表されています。そのため1つのアプローチとして、蛍光体を利用して赤・緑・青のサブピクセルを作る方式が提案されています。

比較的早くから提案されていたのが量子ドット(QD)を使った方式です。青色のLED素子のみを並べたマイクロLEDディスプレイをまず作製します。次に赤と緑のサブピクセルに相当する位置に、青色の光で励起して赤あるいは緑に波長変換して発光する量子ドットを載せます。するとLED素子は青色用だけなのですが、赤・緑・青のサブピクセルを形成することができます。

この方法は、量子ドットの耐久性・毒性と、青色光がそのまま出てくるのに対し、赤と緑は量子ドットから発せられるために光の放射角度などに差異があるなどの課題があり、実用化していません。しかし、青色のLED素子だけを作れば良いとなると、前述の製造工程が大幅に簡略化できる可能性があり、マイクロLEDディスプレイの製品化に大きく貢献するアプローチと考えられます。

この方法の課題を乗り越えられる新たな方法がすでに提案されています。これは紫外光を出すことのできる紫外線LED(UV-LED)を製造販売する日本企業ナイトライド・セミコンダクター株式会社によるものです。まずUV-LEDを微細化して、この上に波長変換する材料を載せることで、サブピクセルの色によって光の放射角度に差異があるという問題は解決できます。次に波長変換材料に、耐久性や毒性に課題が残る量子ドットは使わずに、照明用途などですでに実績のある赤・緑・青の3色の無機蛍光体を使用するというものです。まだ効率や実現可能な色域などの詳細なデータは分かりませんが、かなり有望な方法と考えられます。もしかしたら、かなりマイクロLEDディスプレイの製品化に向けて前進するかもしれません。

マイクロLEDディスプレイの製造装置は販売されているの?

高精細な液晶ディスプレイは、今でこそコモディティ化し、中国勢が大型工場を次々に建設し、供給過剰が懸念される事態となっていますが、研究開発が始まった頃はいくつもの難しい課題に直面していました。液晶ディスプレイメーカーはこれらの課題を乗り越えるために研究開発に取り組みましたが、最終的に大量生産して普及させるためには製造装置の研究開発も重要となります。

したがって、液晶ディスプレイメーカーは製造装置メーカーと協力して研究開発を進め、課題を解決してきました。製造装置メーカーは、製造装置を販売しなければ収益が得られませんので、その後、日本国内だけでなく海外へも製造装置を販売しました。年々製造装置の性能も向上し、製造装置を購入すれば比較的容易にある程度の性能のものを製造できるようになりました。このことが中国メーカーなどの猛烈なキャッチアップを可能としています。

マイクロLEDディスプレイは、まだ普及するような価格で製造できるほど製造方法が確立されてなく、ソニーやサムスンが自社内で研究開発を進めたり、Appleがベンチャー企業を買収したりしている段階です。もし、製造装置メーカーが、十分な製造速度・コストで製造ができる装置を販売し始めるような状況となれば、爆発的に普及が始まるかのうせいがあるでしょう。

現時点(2019年2月28日時点)では、日本の製造装置メーカーである株式会社ブイ・テクノロジーが、マイクロLEDディスプレイの製造装置の販売を開始していますので、次項で紹介します。

マイクロLEDディスプレイの製造装置をブイ・テクノロジーが販売

株式会社ブイ・テクノロジーは、東証1部上場の横浜市に本社を置く企業です。フラットパネルディスプレイ関連の製造装置を販売する事業を続けており、業界では有名です。特に有機ELの蒸着装置などは高く評価されています。

このようにディスプレイの製造装置業界で一定の地位を築いているブイ・テクノロジーが、多くの人が注目するマイクロLEDディスプレイの製造装置の研究開発を進め、販売を開始しました。会社発表によると、紫外光を発するUV-LEDのマイクロLEDに蛍光体を載せることで、フルカラーのマイクロLEDディスプレイを作る方式で、その製造用のレーザーリフトオフ装置とLED移載装置を開発・販売しているとのことです。

マイクロLEDはサファイア基板上で作るのですが、作製後に基板から剥がしてTFTバックプレーンなどに移し替えなければなりません。サファイア基板から剥がす際に、接合面にレーザーを照射し、剥がれ易くする方法をレーザーリフトオフと言います。また大量のマイクロLEDをTFTバックプレーンなどに移す工程も大きな課題となっていますが、これらに使うことができる製造装置を販売してるとのことです。

守秘義務等の関係から顧客企業名は公開されていませんが、海外大手メーカーから受注したことが会社のサイトで発表されています。特に制限なく、普通に購入できるようであれば、販売は伸びる可能性があります。現時点では製造速度などのスペックは公開されていません。

マイクロLEDディスプレイの製造装置の開発は進む?

マイクロLEDディスプレイの製造方法がまだまだ研究開発段階ですので、前述のブイ・テクノロジーの製造装置も作製可能なディスプレイのサイズなどに制限があると考えられます。顧客企業の要望を聞きながらカスタマイズし、まだまだ製造装置の研究開発を続け、改良を加えていくでしょう。

このような製造装置が販売され、多くのメーカーが購入し、巨額の研究開発投資を続けていく状況になれば、日進月歩で技術が向上していくことは歴史が証明しています。白黒の液晶ディスプレイがノートパソコンに搭載された頃のことを知っている方ならば、その後の画質の向上がどれほど素晴らしいものであったのか実際に体験していることでしょう。あの頃に現在のスマホや4Kテレビのような高画質の液晶ディスプレイが実現できるとは、多くの人々が予想できなかったでしょう。それほど大きな技術的な課題が山積されていたのです。

現在のマイクロLEDディスプレイも、多くの難しい課題があります。ブイ・テクノロジーから製造装置が販売されたとは言え、乗り越えるべき課題はまだまだあるはずです。それでも複数の企業が巨額の投資を行い、研究開発を継続するのであれば、着実に前進していくでしょう。

マイクロLEDディスプレイの製造工程改良に役立つ大学の研究

微小なLEDを画素として、膨大な数のLEDを配列した「マイクロLEDディスプレイ」は、ソニーなどによって高い性能が実証されたこともあり、次世代ディスプレイとして注目されています。

しかし、赤色・緑色・青色の微小なLEDを大量に製造し、それを正確に配列・実装する製造工程に多額のコストがかかることから、これらのコストを低減するための研究開発が進められています。大学からの提案について紹介します。

マイクロLEDディスプレイは、ソニーが初めて試作品を展示し、さらに大型ディスプレイとして製品化しました。SamsungやLGも巨額の研究開発費を投じ、猛烈にキャッチアップしようとしています。さらにAppleもマイクロLEDディスプレイのベンチャー企業を買収するなど、世界の大企業が研究開発に取り組んでいます。

このような状況で、桁違いに少ない研究費と、少人数で研究を進める大学から優れた研究成果が生まれるのでしょうか?正直なところ、正面からガチンコ勝負をしても大変でしょう。

しかし、大学での研究は、最終的な製品を製造することに意味があるわけではなく、独創性の高い実証実験ができれば良いわけです。一見すると、ちっぽけな試作品かもしれません。それでもそこに世界初のアイデアや試みがあり、それを大企業が投資して、実際の製品に役立てば良いのです。大学が製造をするわけではありません。

そのような観点で見れば、もしかしたら将来役立つ独創的な研究成果が大学から生まれる可能性は十分にあります。次項から、最近注目されているスパッタリングを用いる方法と、希土類を用いる方法について紹介します。

マイクロLEDディスプレイの製造工程をスパッタリングで改良

マイクロLEDディスプレイの製造工程が高コストになる原因の一つに、窒化物半導体のLEDを高温MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相成長)またはMBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシー)成長により製造していることがあります。これらはスループットが低く、高温プロセスであるためです。また高価なサファイア基板を使用することも原因の一つです。

東京大学生産技術研究所の藤岡洋教授の研究グループでは、スパッタリング法を用いて、低コストのガラス基板上に窒化物半導体のLEDを作製する技術の開発に成功しました。これはPSD(Pulsed Sputtering Deposition:パルススパッタリング堆積)法」という方法で、MOCVDよりも生産性が高い。またMOCVDでは1,000℃程度の高温プロセスであるのに対し、スパッタリングでは500℃以下の低温プロセスが可能なために、基板の選択肢が増えます。

これまでに安価なガラス基板上で、GaNの青色と緑色のLEDとInGaNの赤色のLEDの作製に成功しています。特にInGaNの赤色のLEDは、500℃以下という低温プロセスだからこそ作製可能とのことです。

ガラスはアモルファスなため、ガラス基板上に直接作製すると、結晶性が乱れ、品質が下がります。そこでガラス基板と窒化物半導体の間にグラフェンバッファー層を使用することにより、劇的に結晶性が改善したとのことです。今後の展開に注目です。

マイクロLEDディスプレイの製造工程を希土類で改良

マイクロLEDディスプレイには、光の3原色である赤色・緑色・青色のLEDが必要です。緑色と青色のLEDは、GaNで作製できますが、赤色のLEDはGaNでは作製が困難です。従来からある赤色LEDは、GaAs系半導体で作製されています。LEDを作製するための結晶成長プロセスでは、それぞれの結晶系に適した基板を使用しなければなりません。しかし、それぞれに適した複数の種類の基板上でそれぞれの色のLEDを製造すると、最終的には同じバックプレーンに並べなければならず、製造コストを高くする原因となります。

理想的には、1つの基板上で一気に3原色のLEDを並べて作る方法が望まれます。そうすれば3色のLEDを個別にピックアップして並べる工程が省略でき、劇的に生産性が向上する可能性があるからです。

大阪大学の藤原康文教授の研究グループでは、このような着眼点から、GaNで赤色のLEDを作製する方法を考案しました。具体的にはGaNに希土類のEu3+(ユーロピウムイオン)を添加する方法で、実際に赤色の発光を得ることに成功しています。これにより、GaNで3原色に発光するLEDの作製に成功したことになります。今後の展開に注目です。

まとめ

マイクロLEDディスプレイの製品化に向けた課題である製造方法の改善とコスト削減について紹介しました。世界中で膨大な研究開発が進められていますので、短期間でかなり進展するかもしれません。

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