インテルは微細化ができるのか?ASMLの躍進とニコンの撤退

アムステルダム半導体

インテルの微細化の遅れとAMDの躍進、TSMCの存在感の増大、ASMLのEUV露光装置の独占とニコンの撤退など、半導体業界は大きく動いています。半導体業界の方々はこのような動向は詳しくご存知で、詳しい記事は多数あります。しかし、半導体業界以外の方でも必ずしも無関係ではないと思いますので、できるだけ簡単に解説します。

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インテルの微細化の遅れとファブレス化

インテルは長年パソコン用CPUの市場では圧倒的な強さを誇ってきました。しかし、10 nmの線幅の半導体素子の開発が遅延し、14 nmの製品が1年以上供給不足となり、ライバルのAMDの躍進を許しました。AMDの半導体素子は、台湾のTSMCが製造しており、すでに世界最先端の7 nmの微細化に成功しています。

ここで1つ疑問に感じるのは、なぜTSMCが製造できるのにインテルが製造できないのかという点です。最先端の高性能CPUの設計・製造には、多くのノウハウ・技術が必要であることは理解できるのですが、インテルが躓いてることの根本は微細化のようです。

インテルの同部門の責任者が更迭され、これ以上の遅れが許容できないことから、インテルも製造をTSMCに委託する動きもあります。そのためこれまで垂直統合型の半導体素子ビジネスを進めてきたインテルが、ついにファブレスにビジネスモデルを変更するのかということまで噂されています。

これはインテルにとっても屈辱的なことです。微細化技術のコアは露光装置です。次に露光装置について見てみましょう。

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EUV露光装置を独占するASML

半導体製造プロセスでは、フォトリソグラフィーを使用します。フォトリソグラフィーでは、フォトレジストという感光性材料を基板上に塗布し、製造する半導体の回路パターンを通りに光を透過させるフォトマスクを使って、光を照射します。この時にどこまで細い回路の線が描けるのかが微細化を制限します。この光を当てる工程を「露光」と露光と呼んでいます。原理的には露光工程で使用する光の波長とレンズの性能で微細化の限界が決まります。

このように露光工程は半導体製造においてはもっとも重要なプロセスの1つです。そのため露光装置は重要で、昔から露光装置メーカーも性能を競っていました。1995年頃は、日本メーカーが強く、ニコンが約50%、キャノンが約30%のシェアを獲得していました。そのため、「露光装置は日本メーカーが強い」というイメージを持っている人も多いです。

その後、露光装置で使用する光の波長は短波長化が進み、1980年頃のg線(436 nm)、i線(365 nm)、KrF(248 nm)と切り替わり、2000年代前半にはArF(193 nm)まで短くなります。その後、さらなる短波長化は難航し、ArFの液浸という方法や多重露光などにより、懸命に微細化を進めていました。

光源の波長を短くするという方法で限界に近づいていたため、半導体の微細化も限界に近づいているということがこの頃によく言われていました。この間、ニコンとキャノンはシェアを落として行き、オランダのASMLがシェアを拡大し続けました。そのシェアは、2019年には88.5%まで達しています。ニコンのシェアは7.7%、キャノンは4.4%です。

最先端の露光装置は、EUV露光装置というもので、13.5 nmの光を使用します。これは極端紫外線(Extreme Ultraviolet)と呼ばれる光です。衝撃なのは、EUV露光装置はASMLのみが開発に成功し、シェア100%ということ、ニコンとキャノンはEUV露光装置の開発から撤退したことです。

最先端の半導体の微細化は、EUV露光装置を使用しなければ効率良く製造できない7 nm以下の領域に突入しており、すなわちASMLの露光装置を使わなければならないわけです。

EUV露光装置が市場投入される前からニコンとキャノンはシェアを落とし続けてきたので、単純に技術の差だけではないと考えられますし、撤退を決定したのもEUV装置の開発の成否だけでないでしょう。いずれにしても、最先端の露光装置の事業から日本メーカーが脱落してしまった事実は重いです。


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インテルはなぜ微細化で失敗しているのか?

冒頭の話に戻ります。技術的な観点から微細化の鍵を握るのは露光装置で、最先端のEUV露光装置を使用しなければできない領域に達しています。しかし、これは裏を返せばEUV露光装置を使えば微細化できるということですので、インテルはASMLからEUV露光装置を購入して使えばよいのではないかという印象を受けます。

最初はASMLがインテルにEUV装置を販売していないのかと思ったのですが、必ずしもそうではなく、インテルはASMLから購入できます。それでも微細化するラインが立ち上げられないようです。

つまり、露光装置の使いこなしという点で技術的な差があるようです。インテルは長年ニコンの露光装置を使用しており、現在のシェアの多くもインテル向けとされています。一度決めた装置の仕様を頑なに変更しないとも言われています。

AMSLはTSMCやサムスンらと長年協力関係にあります。またAMSLの姿勢としても、オープンイノベーション志向で、製品も特注品化するよりはできるだけ汎用化して、同じものを多くのユーザーに販売できるようにしています。

インテルとASMLは、研究開発の進め方であまり考え方が一致しない部分があるのかもしれません。

最先端の製造技術は、職人の個人技ではなく装置の性能で決まりますので、それほど遠くない将来にインテルも微細化に成功するのではないかと予想します。その目処が立てば、これまで通りに垂直統合型のビジネスモデルを継続するのではないでしょうか?

まとめ

微細化の遅延によるインテルの苦境とAMDの躍進を語る時に、台湾のTSMCの製造技術のレベルが高いことが言われる事が多いですが、コアの露光装置のAMSLのことについては解説されないことが多いです。ASMLはインテルに対してもEUV露光装置を販売しているためでしょう。

つまり、同じ装置を使っているので、その差はユーザーの技術力の差ということです。しかし、じゅうような装置の使いこなしという点で、装置メーカーとユーザー間の協力関係の構築という点も小さくないのでしょう。時にはそれは開発の方針に影響を与えることがあります。インテルはまだASMLとの間にそこまでの関係を築けていないのかもしれません。

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