自動車のフロントガラスに映像を投影する車載用HUD(ヘッドアップディスプレイ)の研究開発が活発に進められています。
カーナビモニターやインパネなどのディスプレイとは異なり、前方の風景に重ねて情報を表示できるARディスプレイとしての機能に大きな可能性を感じます。
注目の車載用HUDについて解説します。
車載ディスプレイはHUDに注目!
車載の高画質フルカラーディスプレイとしては、カーナビモニターが早い段階で搭載されるようになりました。続いてインパネやセンターコンソールにも採用されています。これらは高画質の液晶ディスプレイで、最先端のものでは曲面ディスプレイも登場しています。いずれも優れた画質ですが、液晶ディスプレイとしてはほぼ重要な開発は成し遂げられ、普及期に入っています。
最先端の技術動向としては、有機ELが車載のこれらの用途に採用されるのか、マイクロLEDディスプレイが採用されるのかなどに焦点が移りつつあります。
これらに比べると、開発動向として現在もっとも注目すべきは車載用のHUD(ヘッドアップディスプレイ)です。つまり、カーナビモニターやインパネ、センターコンソールのモニターなどのようにディスプレイの向こう側の景色を見る必要の無いディスプレイから、フロントガラスに映像を投影し、AR技術を駆使してドライバーに役立つ情報を伝えることができるHUDの開発が盛り上がっているからです。
ご存知のように車載用のHUDは、これまでにも採用され、多くの車に搭載されています。しかし、初期のものはスピードを表示するなど、あくまでもインパネなどに表示される情報をフロントガラスに表示するだけのものがほとんどでした。最新のLexus LSに搭載されているHUDは、歩行者の存在を矢印で表示したり、ARを駆使してドライバーに重要な情報を知らせるように進歩しています。
ARの活用という点では、2012年に発売されたパイオニアのカーナビ、「カロッツェリア・サイバーナビ」において、本格的にカーナビ情報をARでドライバーに伝えられるようにしました。これはレーザーを使ったディスプレイとしても注目度が高かったのですが、専用のレーザーユニットをドライバーの頭上付近に後付けしなければならず、かなり圧迫感が生じてしまうためか、カーナビとして主流にはなっていません。
現在は、衝突被害軽減ブレーキが普及期に入り、そのシステムが使用する高精細カメラからの画像情報を利用できるようになったため、HUDのARがレベルアップしました。その一例が前述のLexus LSのHUDです。今後、さらに性能が発展し、多くの車に搭載されると期待されます。
車載用HUDの世界首位は日本精機
車載用HUDの世界首位は日本精機株式会社で、欧州のダイムラー、BMW、アウディなどにHUDを供給しています。
車載用HUDの高性能なタイプは、表示する映像を遠方にあるように見せることができます。これはドライバーは運転中に前方を見ており、ディスプレイに表示される映像の表示位置もそれに近づけた方が目の焦点を調節する負荷が減るためです。
実際、スピードが上がるほどドライバーはより遠くに目のピントを合わせますので、インパネのスピードメーターを見ようとすると急に近くに目のピントを合わせ、確認後、直ちに遠方に目のピントを合わせなければなりません。これが数m先にあるようにHUDで表示できれば、格段に見やすくなるわけです。
日本精機では、10 m先に映像があるように見せるHUDを開発しました。表示距離としては世界最長です。表示範囲は、80インチのディスプレイサイズに相当します。2020年に量産を始めるドイツの高級車に搭載される予定です。
車載用HUDの技術的な課題は?
前述のように高性能な車載用HUDは映像を遠方にあるように見せることができます。その距離は世界最長で10m(*本記事執筆時に確認できた範囲)で、距離を長くするほど、光学系の容積が大きくなり、車に搭載することが難しくなります。前述の日本精機の最新型では容積が22L以上です。
つまり、車載用HUDの技術的な課題の一つは、映像をできるだけ遠方に表示しながらシステムの容積をコンパクトにすることです。日本精機の最新型の容積以上のものは許容され難いと考えられますので、この方式としては極限の距離に近づいているのかもしれません。
車載用HUDのもう一つの課題は、表示映像の視野角の狭さです。現在市販車に搭載されているHUDの映像を見てみると分かるのですが、助手席からは見えませんし、ドライバーも顔を正しいシートポジションの位置から左右に大きく動かすと見えなくなります。前述の日本精機の最新型はこの点でも改善されているようですが、それにしても助手席からは見えないようです。
この点については、車内カメラでドライバーの顔と視線の位置を検知し、前方の風景に正しくAR映像を位置合わせできるように補正する技術が開発されており、2020年頃にLexus LSの次期モデルに搭載される見込みです。
まとめ
現在注目の車載用HUDについて紹介しました。AR技術による運転支援で、交通事故が減少することを祈ります。
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