SID2019の発表からみるマイクロLEDディスプレイの課題!シャープと京セラも発表!

マイクロLED

SID2019で発表されたマイクロLED関連の論文について紹介します。フランスの調査会社Yole DeveloppmentとKnowMadeの共著による、マイクロLEDディスプレイの課題を俯瞰する発表、ALLOS社のGaN-on-Si技術、Tesoro ScientificのMass-Transfer技術などについてです。

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SID2019の発表からみるマイクロLEDディスプレイの課題

マイクロLEDディスプレイは、ソニーが米国ラスベガスで開催された「2012 International CES」において55型でディスプレイを参考展示し、さらにサイネージ等に使用する大型のディスプレイ「CLEDIS」として事業化して以降、サムスンなどの他のメーカーも追随しています。現時点では、極めて大きな業務用が販売されているのみで、一般消費者向けのディスプレイは販売されていません。

AUOなどいくつかのメーカーから、より小型のマイクロディスプレイが試作品として、展示会で公開されています。これらを見ると、少なくとも試作品としては作製できる段階にあることが確認できるため、一般消費者向けのディスプレイとして許容できる製造コストまで下げることができるか否かが最大の課題とされてきました。

SID2019の時点においてもその状況は変わらず、まだ一般消費者向けの製品は販売されていませんが、シャープや京セラなど、これまでマイクロLEDディスプレイの試作品を公開していなかった企業からも展示が行われるなど、参入が増えています。ブイ・テクノロジーのようにマイクロLEDの製造装置を販売するメーカーも出てきており、最大の課題である製造コスト低減が猛烈な勢いで進展していることは間違いないでしょう。

フランスの調査会社Yole DeveloppmentとKnowMadeの発表においても、2013年に33件であったマイクロLEDディスプレイの公開特許件数が増加傾向にあり、2018年には482件であったことが報告されています。

マイクロLEDディスプレイの製造コスト低減の最大の課題は、TransferとAssemblyです。マイクロLEDはウェファー(サファイア基板、シリコン基板など)上で結晶成長させて作り、そこから切り出します。したがって、切り出したマイクロLEDを最終的なバックプレーンとなる基板上に移す必要があり、その工程をTransferと呼んでいます。TransferしたマイクロLEDを正しい位置に配置し、基板に配線して取り付けます。この工程をAssemblyと呼んでいます。

8Kであれば、7,680×4,320=33,177,600画素(ピクセル)ですが、赤・緑・青のサブピクセル毎にそれぞれ別のマイクロLEDを割り当てますので、その個数は3倍の約9,953万個。つまり、約1億個です。これだけ膨大な数のマイクロLEDを正確に並べて配線していくわけですので、如何に大変な工程であるのかよくわかります。

現時点で99.99%~99.999%の歩留まりで、Transfer & Assemblyを行ったという報告例が報告されてきていますので、これらの工程についてはかなり課題解決に向けて進んでいるようです。そのため、むしろその他の課題に注目が集まっており、公開特許においてもそれらの課題解決に関するものが増えています。それらのいくつかについてさらに詳しく紹介します。

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マイクロLEDディスプレイの課題:歩留まり向上と修復

一つのウェファーから切り出したマイクロLEDの中でも、発光波長のバラつきなどの不良があります。現状では、これらの不良のマイクロLEDも、Transfer & Assembly後に発光させてみないと不良であることが確認できません。したがって、すべてのマイクロLEDをTransfer & Assemblyし、テストをした後に不良のマイクロLEDを特定し、良品と交換して修復するという大変な作業を行わなければなりません。

8Kディスプレイの場合、約1億個のマイクロLEDの内、99.99%の歩留まりでも10,000個もの不良(画素欠陥)があり、これに膨大なコストがかかります。すでにTransfer & Assemblyよりも難題となっているようです。

「低コストで画素欠陥を修復する技術の開発」、「Assembly前に不良のマイクロLEDを選別する技術の研究開発」、「2倍のマイクロLEDをTransfer & Assemblyする技術の開発」などのアプローチが進められています。特に最後の「2倍のマイクロLED」というものはユニークで現実的です。一つの画素の歩留まりが99.99%であるならば、2つ実装してしまえば、両方とも不良となる確率は格段に低くなるので、修復のコストを大きく下げることができます。

現時点で決定的な技術はまだ確立されていませんが、着実に改善されていくように感じます。

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マイクロLEDディスプレイの課題:小型化と外部量子効率の向上

これまでに展示されている試作品のマイクロLEDのサイズは、数十ミクロン程度のものがほとんどです。このレベルであれば問題ないのですが、小さくするほど現在の技術では効率が低下します。投入された電気エネルギーの内、光に変換されないエネルギーの割合が増加してしまうためです。この割合を、最終的に素子の外部に取り出せる光エネルギーに対して測定したものが外部量子効率です(*光に変換できても外部に取り出せないものもあるということです)。

前述のようにウェファー上でマイクロLEDを作製し、切り出しますので、個々のマイクロLEDが小さいほど多数のマイクロLEDが得られることが分かります。一般消費者向けの製品として許容できる価格にするためには、マイクロLEDのサイズを5ミクロン以下にする必要があるとされています。そのような大きさでは、外部量子効率が1-5%となったという報告があり、課題となっています。

この課題にも取り組んでいる研究グループがあり、ベストデータでは20-25%以上の外部量子効率が報告されています。これを50%まで向上できると考えている研究グループもあり、近い将来に解決できるかもしれません。

また赤色、緑色、青色のマイクロLEDにおいても効率に差があります。特に赤色のマイクロLEDの効率が低く、課題となっています。

シャープがSID2019で発表したマイクロLEDディスプレイとは?

シャープから、「1,053 ppi Full-Color “Silicon Display” based on Micro-LED Technology」と題して発表がありました(参照:Hiroaki Onuma, et al, SID 2019 Digest, 25-5, 2019)。これは1,053 ppiの0.38インチのマイクロディスプレイで、解像度は209,088 sub-pixels (H:352 x RGB X V:198)です。サブピクセルのサイズが24×8 um2で、これを3つ合わせて24x24um2がピクセルサイズとなっています。赤色・緑色・青色のサブピクセルから構成され、フルカラー表示が可能です。

シャープがこれを「Silicon Display」と呼んでいるのは、Silicon processにより作製しているためです。上記の小さな画素&高画素密度のmonolithic LEDアレイを作製し、その上に赤色と緑色用の量子ドット(QD)層をフォトリソグラフィにより形成しています。またサブピクセル間のクロストークを防ぐシールドも形成しています。

164mA、60 frame/sで1,000nitsの輝度となっています。色域はSRGBカバー率で120.5%です。

マイクロLEDディスプレイとマイクロディスプレイの違いは?

少々分かりにくい点ですが、マイクロLEDディスプレイとマイクロディスプレイとは何が違うのでしょうか?

マイクロLEDディスプレイとは、ディスプレイを表示するためのそれぞれの画素がLEDから構成されるもので、そのLEDの大きさが100um以下のものです。LEDの発光面の形状が四角であればその辺の長さが100um以下、円形であればその直径が100um以下です(*大きさについてはこのような定義が一般的ですが、厳密なものではなくおおまかなコンセンサスであるため、異なる主張もあります)。

マイクロディスプレイとは、一般的には「1280×720以上の解像度」かつ「1インチ未満」の超小型ディスプレイのことです。このことから画素およびそれを構成するサブピクセルのサイズは小さくなり、これをマイクロLEDディスプレイで作れば、マイクロディスプレイでもあり、マイクロLEDディスプレイでもあります。つまり、有機ELや液晶によりマイクロディスプレイを作ることもあり得るわけです。

この定義にしたがえば、前述のシャープの発表した試作品は、マイクロディスプレイと呼ぶには解像度が足りませんし、シャープもこれをマイクロディスプレイとは言っていません。しかし、下記で述べるように、マイクロディスプレイを目指したものです。

シャープはなぜマイクロLEDディスプレイを発表した?

シャープの発表論文から読み取れることは、屋外でも使えるように十分な高輝度が得られるマイクロディスプレイを実現するために、マイクロLEDディスプレイを選択しているということです。具体的な用途としては、例えばカメラやビデオカメラのファインダーなどです。これまでに有機EL(OLED)による超高画素密度のマイクロディスプレイが発表されています。しかし、OLEDは高輝度にすると寿命が著しく短くなるため、屋外で十分な輝度を得ることが困難です。マイクロLEDディスプレイは高輝度を得ることができるポテンシャルがあるために開発を進めるとのことです(*前述のシャープの1,000nitsではまだ不十分で、目指す高輝度には至っていません)。

マイクロLEDディスプレイによるマイクロディスプレイでは、フルカラー化が難しいです。そのためシャープは、青色のみのマイクロLEDアレイを作り、赤色と緑色のサブピクセル部分にフォトリソグラフィでQD層を形成し、フルカラー化を実現しています。この方式そのものは、すでに他からも発表されているものですが、現在、マイクロLEDディスプレイの分野では、製造効率を改善し、製造コストをどこまで下げられるのかが最大の注目ポイントですので、方式のオリジナリティよりは、実際に試作したということの方がある意味重要です。

これまで発展してきたシリコンプロセス(Silicon precess)をできるだけ活用することが、製造コストの低減に大きく寄与するでしょう。

また前述のように、OLEDなどの他の方式のディスプレイの弱点となる特性を理解し、その特性が重要となる用途でマイクロLEDディスプレイを投入することも戦略上重要となります。「液晶のシャープ」と言われた同社が、マイクロLEDディスプレイにも乗り出してきたことに注目すべきでしょう。

京セラがSID2019で発表したマイクロLEDディスプレイとは?

京セラが展示したマイクロLEDディスプレイの試作品の主要なスペックは以下の通りです(*シンポジウムで発表された京セラの論文参照。SID 2019 Digest 11-5, 2019)。

ディスプレイサイズ:1.8インチ
解像度:256×256
画素密度:200ppi
カラー方式:赤・緑・青・黄のサブピクセルから1画素を構成
各サブピクセルをそれぞれの色で発光するLEDで構成
*量子ドットやその他の蛍光体の使用については記載はない
*それぞれの色のLEDの発光特性についても記載はない
画素ピッチ:127um
最大輝度(白表示時):984nits
コントラスト:100万対1
フレームレート:240Hz
視野角:178度
動作温度範囲:-30~80℃
色域:NTSC比117%、Rec.2020比88%

展示ブースでの撮影も制限されており、各色のLED作製方法等開示されていない重要部分もあります。しかし、試作品は非常に明るく、高画質に見えましたので、説得力がありました。

これまで他の研究グループなどから発表されている内容から考えると、赤・緑・青で発光するそれぞれのマイクロLEDを同一基板上で作製することが難しく、またLEDの性能のばらつきもあるため、多くの場合はそれぞれ個別に作って、良好な特性のマイクロLEDをピックアンドプレイスで並べるという方式を採っています。そしてこの工程に多大な時間とコストがかかることがマイクロLEDの製造コストアップの原因の一つとなり、本格的な普及の壁となっています。

いきなり同一基板上で赤・緑・青のマイクロLEDを作製する試みも進められていますが、その場合は不良のマイクロLEDをどのようにリプレイスあるいはリペアするのかということが課題となります。最近のディスプレイ分野では、ほとんど画素欠陥が許されないからです。

シャープのなどのように、これらの課題を回避するため、青色のマイクロLEDアレイを作り、その上に量子ドットや無機の蛍光体を配置してフルカラー化を実現する方法が現時点では、実用化に近そうな方法として注目されています。

京セラの論文では、赤・緑・青・黄の4色のサブピクセル構成となっていることも驚きですが、これらの課題をどのように解決しているのかは記載されていません。最高機密なのでしょう。何らかの方法により克服したのであれば、驚異的な成果です。

京セラがSID2019で発表したマイクロLEDディスプレイの狙いは?

京セラの発表論文の記載内容から、今回の同社のマイクロLEDは次のような狙いのようです。

これまでにCOMSバックプレーンにより、極めて高い画素密度のマイクロディスプレイが報告されており、これらはARやVR用に期待されています。しかし、CMOSバックプレーンということから1インチ以下のディスプレイサイズに制限されています。ガラス基板でLTPSのバックプレーンを用いれば、このような制限を取り払い、もっと大きな画面サイズまで可能性が広がります。ここに同社の狙いがあるようです。

マイクロLEDディスプレイは、製品化ではソニーが世界をリードし、100インチ以上の大型の用途に狙いを絞って事業化しています。サムスンも映画館向けなど、大型から参入しています。

ディスプレイ分野を俯瞰した時に、次は技術的な特性から考えて、1インチ以下のマイクロディスプレイがターゲットになるのではないかと言われてきました。

実はこれらの間のテレビ、モニター、スマホ、Watchなどが市場規模はもっとも大きいのですが、既存の液晶や有機ELなどがすでにかなり低価格で利用されているので、事業としてハードルがもっとも高いと考えられます。

京セラのコンセプトはマイクロディスプレイよりも上のサイズということなので、将来的にもっとも市場規模の大きい領域を狙うということなのでしょう。

京セラのマイクロLEDディスプレイはApple Watch搭載を目指す?

京セラの発表論文の中に、縦軸「インチサイズ」vs 横軸「画素密度」のグラフ上にディスプレイの用途をマッピングした図があります。論文中で明確に書かれていませんが、1インチ以下のマイクロディスプレイよりは上のサイズを見た時に、一番近いところで「Watch」と書かれていますので、当面はこの用途を意識しているのかもしれません。

それはApple Watchを代表とするスマートウォッチの用途では、マイクロLEDディスプレイが期待されています。特にAppleがマイクロLEDディスプレイのベンチャー企業を買収してから、Apple WatchにマイクロLEDディスプレイが搭載されるのではないかという憶測情報がかなりあります。

現在のApple Watchは、有機ELディスプレイが搭載されており、非常に美しい表示です。新製品になる度に改善されていますが、一番の泣き所はバッテリー寿命と最大輝度でしょう。腕時計ですので、屋外で文字盤を見ることがありますが、日光が当たる状況でも十分に読み取れるレベルの輝度が求められます。

また現在の製品でも、ほぼ1日に1回充電しないと使い続けられません(*使い方にもよりますが、1回の充電で3日以上持つことはないでしょう)。常に装着しておくウェアラブルデバイスとしては、頻繁に充電しなければならないのは煩わしいですし、通常の腕時計ならば毎日充電する必要が無いことを考えても、ディスプレイの効率を向上させたいという要求は高いです。

これらに応えられるディスプレイ技術は、現時点ではマイクロLEDディスプレイしかないでしょう。京セラはそこを目指しているのかもしれません。

SID2019でのTesoro ScientificのマイクロLED製造方法

SID Display Week 2019のMicroLED-TransferのセッションのInvited Paper 18-1として、Tesoro ScientificのCEOのFrancois J. Henley氏から「Evaluating In-Process Test Compatibility of Proposed Mass-Transfer Technologies to Achieve Efficient, High-Yield MicroLED Mass-production」と題して発表がありました。

マイクロLEDディスプレイの製品化の鍵を握る「Mass-Transfer」工程について、同社の技術とすでに公表されている他社の技術を簡潔に比較した表が掲載された、極めて有意義な論文発表です。「Mass-Transfer」工程の現状を知りたい方は、是非ご一読されることをおすすめします。

その論文の内容は詳細であり、さすがにここで詳しく説明することはできませんので、最重要ポイントのみ簡単に説明します。

マイクロLEDディスプレイの製造では、まずエピタキシャル成長で基板上にマイクロLEDを作製します。そこからマイクロLEDを切り出し、最終的な基板上に移します。この工程が「Mass-Transfer」です。そして配線等を施し、実装します。

ここ数年の進歩により、「Mass-Transfer」の効率はかなり向上しています。しかし、極めて多くのマイクロLEDを実装するため、中には不良のマイクロLEDもあります。仮に99.99%が良品であったとしても、8Kであればサブピクセルは約1億個もありますので、不良のマイクロLEDも10,000個に達します。

マイクロLEDを実装してしまった後に、この不良のマイクロLEDを取り除き、良品を実装すると、膨大な時間とコストがかかってしまいます。それらのコストは、「Mass-Transfer」のコストを上回ります。最終の基板に実装(電気的な配線)をする前に、不良品のマイクロLEDを選別・除去できれば良いことになります。

Tesoro Scientificの技術は、それを可能にするものです。電気的な配線をする前に、マイクロLEDのエレクトロルミネッセンス機能をテストするにはどうすれば良いのでしょうか?単純な方法は、プローブなどを使って、個々のマイクロLEDに電流を流して発光させる方法が考えられます。しかし、この方法で約1億個のマイクロLEDをテストしようとすると、膨大な時間がかかってしまい現実的ではありません。

プローブ等で電気的な接触をせずにマイクロLEDのテストをする技術を同社は開発しています。その原理は同社のホームページに掲載されていますが、マイクロLEDに外部から光を照射して、発光する様子を顕微鏡で拡大し、CCDに記録する方法です。

マイクロLEDは、外部から電流を流し、そのバンドギャップに対応した波長の光を放出する素子です。つまりエレクトロルミネッセンス(EL)という現象を利用しています。しかし、そのバンドギャップのエネルギーよりも大きなエネルギーの光を照射すると、光を放出するフォトルミネッセンス(PL)という現象が観測されることが知られています。同社の技術は、この現象を利用したものです。

同社の技術では、55,000個のマイクロLEDを5秒以下、4インチのウェファーならば5分以下ですべててすとでき、プローブを使う方法と比べると桁違いに高速です。これにより、ウェファー上のどのマイクロLEDが不良であるのかを知ることができ、良品だけを「Mass-Transfer」工程で最終の基板上に移せば問題となる修復すべきマイクロLEDの個数を格段に減らすことができます(*Mass-Transfer工程および実装時の不良も在り得るのでゼロにはならないようです)。

この方法を駆使した同社の「Mass-Transfer」工程では、スループットが200-500M/hr以上とのことです。

Tesoro Scientificとは?

Tesoro Scientific Inc.は、CEOのMr. Francois J. Henleyが2017年に創業した企業で、米国カリフォルニア州のシリコンバレーにあります。前述したようなマイクロLEDの大量生産を可能にする装置を開発しています。

Mr. Francois J. Henleyは、以前はPhoton Dynamicsという企業を創業しました。同氏が発明したLCD flat-panel production test equipment「Voltage Imaging test system」を販売するためです。この企業は1995年にNASDAQに上場し、2008年にOrbotechに買収されました。その技術は、今でもTFT-LCDやOLEDの大量生産に利用されています。

シリコンバレーには、このような技術志向の元気なベンチャー企業がありますね。実績のある創業者なので、今後に注目です。

マイクロLEDディスプレイの製造方法は着実に進歩している

マイクロLEDディスプレイの製造コストは、まだまだ高いです。現時点ですぐに液晶ディスプレイや有機ELを押しのけてディスプレイの主流になれるほどのコスト競争力はありません。

それでもここ数年の製造技術の進歩は著しく、多くの企業が研究開発の努力を続けていれば、急速に発展していく期待は持てるでしょう。現時点でも、「Mass-Transfer」工程そのものはかなりのところまで来ています。ここで紹介したような画素欠陥を減らして歩留まりを上げるための効率的な方法が開発されていけば、急速に製造コストが下がる可能性が高そうです。

例えば、初期の液晶ディスプレイの時のように、ある程度以下の画素欠陥を許容してしまえば、かなり製品化近づくでしょう。また1か所に2つのマイクロLEDを実装してしまうという方法も提案されています。両方とも不良となる確率は極めて低いからです。「Mass-Transfer」スピードがさらにアップすれば、現実的な解決策となるかもしれません。

ウェファー上でマイクロLEDを作製する技術も向上してくれば、そもそもの不良のマイクロLEDも減少する可能性もありますので、いろいろな技術の発展の相乗効果も期待できそうです。

世界的な景気が悪くなって、多数の企業が開発を中止するような事態にならないことを祈ります。

ALLOS社のGaN-on-Si技術に注目!

現時点で想定されているマイクロLEDディスプレイでは、GaN(窒化ガリウム)結晶からなる微小なLEDを使用します。フルカラー化する方式は大別すると2つあり、1つは赤色・緑色・青色のマイクロLEDを配列する方法、もう1つは青のマイクロLEDの上に赤や緑への波長変換材料を配置する方法です(*UV-LEDを用いる方法もありますが、ここでは割愛します)。いずれの方法も、青色のマイクロLEDを利用するという点では共通しています。

青色LEDは、2014年度のノーベル物理学賞で注目されました。かつては難しくて作ることができなかった青色LEDを、赤崎勇(名城大教授)、天野浩(名古屋大学教授)、中村修二(米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授)らの研究開発により、実現しました。その後、日亜化学工業などが工業化の努力を続け、大量に生産し、コストダウンを続けた結果、社会で広く利用できるようになりました。

この青色LEDの実現の鍵となったのが、GaN結晶を成長させる基板としてサファイア基板を選択したことです。結晶は、基板となる物質の結晶面にそって成長していくため、何でも良いというわけではなく、適した基板というものがあります。GaNの場合、それがサファイア基板であったということです。

工業的なサファイア基板の価格は把握していませんが、サファイアですので高価であることは分かります。実際、これをもっと安価な基盤に代替することで、マイクロLEDの製造コストを下げようという試みが進められています。

サファイア基板の替わりにSi(シリコン)基板を選んで、研究開発を進めている企業がドイツのALLOS社です。Si基板上にGaN結晶を形成するため「GaN-on-Si」と呼ばれています。

ALLOS社のGaN-on-Si技術とは?

あまり専門的なことには立ち入らず、できるだけ簡単に説明します。Si基板は、半導体産業で大量に使用されていますので、サファイア基板に比べると非常に安価です。しかし、サファイア基板とは異なり、Si基板上でGaNを成長させることは難しいのですが、ALLOS社ではその製造方法を確立しつつあります。

SID2019では、ALLOS社から200 mm径Si基板を用いた「GaN-on-Si」の発表がありました。製造プロセス中にかかる歪の精密な制御が技術的には重要とのことです。

製造装置にはVeeco社のPropel Power GaN MOCVDシステムと使用しているとのこと。つまり、市販の製造装置を購入し、ALLOS社の方法で製造すれば、誰でも「GaN-on-Si」技術を利用できることを意味しています。

ALLOS社とは?

ALLOS社とは、ALLOS Semiconductors GmbHというドイツ企業です。もともとはAZZURRO Semiconductors AGというドイツ企業があり、2008年に同じくドイツ企業であるOSRAMから「GaN-on-Si」技術のライセンスを受けました。

AZZURRO Semiconductors AGは2014年に活動を停止しました。AZZURRO Semiconductors AGの社員がALLOS Semiconductors GmbHを設立し、ALLOS Semiconductors GmbHの特許・ノウハウなどをオークションで購入し、活動を続けています。

ALLOS Semiconductors GmbHは、「GaN-on-Si」技術の研究開発を続け、高いレベルに到達しています。世界中でエンジニアリングとコンサルティングサービスを提供しているため、この技術を欲しい企業は、同社から有償で技術提供を受けることで、研究開発リスクを抑え、短期間でこの技術を使えるようになります。

このように現在のディスプレイ業界では、研究開発に特化し、その技術を提供することで事業を進める企業があります。このような存在が、業界全体の発展のペースを加速するでしょう。

まとめ

マイクロLEDディスプレイの課題について紹介しました。ここで紹介しました課題以外にも、HDRでの駆動制御、赤・緑・青のマイクロLEDの発光強度角度分布の調整、量子ドット(QD)での色変換などがあります。正直なところ、製品化・事業化のための課題が山積していますが、直近の数年間の技術の進歩も著しいものがあることも事実です。

振り返ると、高精細のフルカラー液晶ディスプレイの研究開発の歴史も類似したものがあったのかもしれません。最初はあまりの技術的なハードルの高さにひるみますが、まず試作品ができて、技術的に実現可能であることが示されます。そうするとそれを工業的に製造する技術もものすごい勢いで進歩します。いつしか技術は成熟し、「当たり前」のことになってしまいます。

マイクロLEDディスプレイも、もしかしたらそのような長い研究開発の旅を始めたのかもしれません。「人間はリアルにイメージできるものは実現できる」と言われます。多くの企業が研究開発を継続している限りは、実現に向けて進んでいくと期待したいです。

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